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QOLを低下させない消化器がんの骨転移対策
骨転移は早期治療をすれば痛みが抑えられ、骨折も予防できる

監修:井口東郎 四国がんセンター臨床研究部長
取材・文:町口充
発行:2008年5月
更新:2019年7月

  

井口東郎さん

四国がんセンター臨床研究部長の
井口東郎さん

骨転移は、乳がん、肺がん、前立腺がんなどで起こりやすいことが知られているが、消化器がんの骨転移についてはあまり知られていない。ところが、臨床の現場ではけっして珍しいものではなく、しかも最近は大腸がん、肝臓がん、膵臓がんなどで増えている。
QOL(生活の質)を著しく低下させる骨転移には早めの対策が必要だ。


生命予後が悪い消化器がんの骨転移

消化器がんの骨転移が増えている。骨転移に詳しい四国がんセンター臨床研究部長の井口東郎さんによれば、「増加が目立つのは肝臓がん、膵臓がん、大腸がん」という。

四国がんセンターでは過去5年間に消化器がんの骨転移がどのくらい発生したかを調査している。それによると、大腸がん、膵臓がんはそれぞれ12パーセント、肝臓がんは13パーセント弱(九州がんセンター)。胃がんは8パーセントだが、もともと罹患数が多く、骨転移数は大腸がんと同じくらいの30例が見つかっている。井口さんはその理由をこう説明する。

「1つはがん治療の進歩で、患者さんの寿命が伸びたことです。かつては骨転移の症状が出る前に亡くなるケースが多かった。現在は患者さんが長生きするようになりその点、症状が出る割合が多くなったわけです。もう1つ、私たちの施設ではPET-CTという診断機器が導入され、最初に全身をスクリーニング(拾い上げ)することで、症状が出ないうちに骨転移を見つけられるようになったことが挙げられます」

消化器がん骨転移の特徴は、生存期間があまり長くないことだ。乳がんや前立腺がんは骨転移を来たしても必ずしもすぐに命にかかわることはない。これに対して消化器がんでは比較的予後が長いといわれる大腸がんでも、1年生存率は3割程度。肝臓がん骨転移の1年生存率は1割台、胃がんに至っては1割未満と見られる。

「もっとも最近は化学療法の成績が飛躍的に向上しており、このデータより予後はよくなっているはずです。ただその中でも胃がんの骨転移は『骨髄癌腫症』という状態を招く場合があって、予後がきわめて悪くなります」

[消化器がんで骨転移が起こる頻度]

原発
臓器
剖検
(四国がんセンター
1959-97年)
治療症例(四国がんセンター, 2003-07)
入院症例数 骨転移合併例 骨転移頻度
食道 24.60% 204 5 2.50%
大腸 22.70% 247 30 12.10%
22.50% 369 30 8.10%
膵臓 21.30% 133 16 12.00%
胆道 17.40%      
肝臓 16.80% 404** 52** 12.8%**
森脇昭介,病理と臨床 17,28-34, 1999より引用
**九州がんセンター(1988-97)での調査結果

解明されつつある骨転移のしくみ

骨転移が現れる部位で1番多い部位は脊椎で、続いて大腿骨、骨盤に多い。がん転移のルートは血行性のものとリンパ行性のものがあり、骨転移は一般的に血流に乗って起こると考えられている。血流が豊富なためだ。ただし、すべてが血行性転移だけでは説明がつかず、リンパ行性転移も関係していると考えられる。

「肝臓がんや膵臓がんで骨転移が多いのも、血行性転移が関与していると考えられます。肝臓がんでは肝臓へ血流が注ぐ門脈が門脈圧の亢進で逆流したり、膵臓がんでは門脈がつぶれたりすることがあり、これにより脊椎静脈への流れができ、脊椎に転移しやすくなるのではないかと考えています」

がん細胞は、がんの発生する場所の細胞組織によって、皮膚や粘膜に発生する扁平上皮がん、内臓の分泌物を出す上皮に発生する腺がん、原発巣がわからない未分化がんなどに分かれる。未分化がんは最も転移しやすく、骨転移も多い。また、扁平上皮がんと腺がんでは腺がんのほうが骨転移が多い。

「血流に乗ってきたがん細胞が骨に入り込むメカニズムもいろいろ考えられています。がん細胞中のある物質が、骨の中にある物質に、まるでフェロモンを感知した昆虫のように引き寄せられるのではないかと思われます」

骨転移には、骨が壊されていく溶骨型と、粗悪な骨が造られていく造骨型という2つの代表的なタイプがある。ほとんどのがんの骨転移は溶骨型か両者が混じった混合型を示すが、前立腺がんでは造骨型の転移をみることが多い。消化器の骨転移の様子をこうしたタイプに分けられるなら、一般的には溶骨型が多い。続いて溶骨型と造骨型が混じった混合タイプが多く、前立腺がんのように典型的な造骨型はあまりない。

[骨転移(溶骨性骨転移)が起こるしくみ]
図:骨転移(溶骨性骨転移)が起こるしくみ

骨転移は、まず(1)がん細胞が原発巣から遊離し、血管内に入る。(2)血液の流れに乗って、がん細胞が骨(骨髄)に到達する。(3)がん細胞が破骨細胞を活性化し、破骨細胞が骨を溶かして破壊する。(4)破壊された骨から栄養素が放出され、がん細胞はこの栄養素を元に増殖する

骨転移診断に向いたPET-CT検査

骨転移は多くの場合痛みを自覚することが発見のきっかけになる。ただ痛みの感じ方は人によって異なるので、骨がどれくらい壊れたら痛くなるかなどについてはわかっていない。また骨折も十分気をつけなければならない。骨粗鬆症でもよく起こるように、肝臓がんや乳がんなどの骨転移では、体重がかかる股関節などの骨折が起こりやすくなる。また脊椎の圧迫骨折などのために、下肢にしびれなどの症状が現れることも多い。痛み、しびれ、骨折は、骨転移の3大症状だ。

「骨転移は早めに治療を行えば痛みも抑えられるし、骨折も予防できます。圧迫骨折をしたらQOLが大きく落ちてしまうので、より早期の発見が大切です」

骨転移の診断には一般には骨シンチグラフィ(骨シンチ)、X線CT、MRIの3つの画像検査が用いられている。骨シンチでは患部に異常集積という現象が観察されるし、骨が壊れている様子はX線CTあるいはMRIでとらえられる。
これに対して、四国がんセンターでは、骨転移の診断にPET-CTという新兵器を導入している。日本ではまだ普及が遅れている検査法だが、同センターは西日本で一番の稼働率だそうだ。

PET-CTはPositron Emission Tomogrphy(陽電子放出断層装置)-CTの略。X線やMRIなどの形を見る検査ではなく、がん細胞が糖を大量に消費する性質を利用して細胞の活動状況を画像でとらえる。これに人体を様々な角度から輪切りにした写真をとらえるCTを組み合わせたのがPET-CTだ。

「PET-CTでは、骨シンチで陰性となった例でも骨転移をとらえることができ、早期診断には有力です。骨シンチは骨が壊されたあと再び作られる状態をとらえるものなので、早期の骨転移(骨髄転移)、溶骨が激しい骨転移では見つからない場合もあります。PET-CTは従来の3つの検査を1つで行うことができ、経済的にも優れています」


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