患者に優しいラジオ波焼灼術が治療の主流
変わりつつある転移性肝がんの最新治療
東京大学医学部付属病院
消化器内科講師の
椎名秀一朗さん
転移性肝がんの治療は肝切除が第1選択といわれてきたが、原発がんの悪性度や肝臓内外の病変の状態により切除の対象となるのは10~30パーセントだ。また、原発巣の切除後短期間で転移が見つかった患者さんや高齢者では再手術を希望しないことも多い。
では、切除しない場合にはどんな治療法が主流になっているのだろうか。
肝臓は転移の好発部位
転移性肝がんとは、他の臓器に発生したがんが肝臓に転移したものである。本来、病気としては原発がんの名称で「○○がんの肝転移」と呼ばれるべきものであるが、発症頻度の高さと転移経路の共通性から「転移性肝がん」は1つのまとまった病気として取り扱われることが多い。「生体内の化学工場」と呼ばれる肝臓は、血管を介して全身のさまざまな臓器とつながっている。このため、他の部位で生じたがんが高頻度に転移する。とくに、胃や大腸、胆のう、膵臓などの腹部臓器の血液は門脈という血管を介して1度肝臓を通ってから全身に回るため、これらの臓器のがんは最初に肝臓に転移することが多い。では、転移性肝がんではどんな治療が行われるのだろうか。
転移性肝がんの治療
まずは転移性肝がんの一般的な治療指針をみておこう。
治療の第1選択肢はやはり外科手術によるがんの摘出だ。肝臓は切除後も再生されるため治癒が見込める場合には、手術による腫瘍の摘出が確実だ。もっとも、現実的には再手術は患者さんに負担がかかることに加え、肝臓以外の部位にも転移が見られることも多く、手術できるのは患者さんの10~30パーセントだ。
また、手術をしてもCTなどでも見えない小さな転移がすでに存在し、術後間もなく再発してくることも多い。
手術をしない患者さんに行われるのが、抗がん剤を静注あるいは内服する全身化学療法、抗がん剤が肝臓に直接注入されるよう肝動脈内にカテーテルを挿入する肝動注化学療法、そして超音波やCTで病変を見ながら針や電極を挿入してがんを治療する経皮的局所療法などだ。
なかでも新しい経皮的局所療法であるラジオ波焼灼術(RFA)はがんが治せるのに体の負担が少ない治療法として注目を集めている。
高熱で確実にがんを治すラジオ波焼灼術
ラジオ波は、従来無線通信などに用いられていた電磁波の一種で、集束すると高熱を発する性質を持っている。
ラジオ波焼灼術はその熱によって腫瘍を焼き切る治療法だ。具体的には、両側の太腿に対極板を貼り付け、皮膚を2~3ミリ切り、超音波で観察しながら径1.5ミリの電極を患部に挿入する。
対極板と電極との間で通電すると電極周辺の温度は約100度に上昇し、その熱で腫瘍が焼き切られることになる。1カ所の焼灼時間は3~12分間。病変が大きければ電極を何カ所かに挿入して全体を焼き切ることになる。100度に熱せられた範囲にがん全体が含まれれば、肝切除と同様の効果が得られる。
原発性肝がんの分野ではすでにラジオ波が多くの症例で選択されるようになり、肝切除を行う症例が著しく減少している。
「ラジオ波を行ったがんの99パーセントは完全に死滅したと評価されています。きちんと行えれば確実にがんを治すことができる治療です」
こう語るのは、ラジオ波による治療件数が世界一の東京大学医学部付属病院消化器内科の椎名秀一朗さん。
負担の少ない体にやさしい治療
ラジオ波焼灼術の施行風景
「ラジオ波は全身麻酔や開腹手術が不要なため原発巣の手術後でまだ体力が回復していない患者さんや高齢者にも可能です」と椎名さんは語る。
99年からラジオ波焼灼術を中心としたがん治療を手がけており、90歳以上の患者さんも治療している。
治療時間は病変の大きさや数により変わってくるが、おおよそ1~2、時間。治療後は4時間絶対安静、翌朝までベッド上で安静で、食事は4時間後から、歩行は翌日から可能となる。翌日に造影CTで治療効果を判定する。がんが残存する可能性が少しでもあれば、3日後に再治療が行われる。1回の入院で平均1.5セッションの治療が行われ入院日数は平均10日間。
治療の費用は1回13万6000円。04年からは保険適用が認められている。
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