「転移性肺がん」と「原発性肺がん」は、こうして見極める
原発を知ることから始まる肺転移の最新療法
東京医科大学病院
呼吸器外科准教授の
坪井正博さん
肺転移は、別名「転移性肺がん」と呼ばれ、肺がんではない。ここはよく間違われやすいので、十分に注意する必要がある。どこかよその臓器から肺に飛んできたのが肺転移で、飛んできた元の臓器、細胞の性質を備えている。この肺転移と元々肺に生じた原発性肺がんとどう区別をつけるのか。そして治療はどうしたらいいのか。
がんの発祥地が治療を左右する
がん細胞が最初に発生した場所を「原発巣」、飛んでいった先を「転移巣」という。転移は、リンパ液を介して転移する「リンパ行性転移」と血液を介して転移する「血行性転移」とに分かれる。他の臓器から肺に転移(遠隔転移)した場合のほとんど、9割以上は血行性転移といわれている。
ひと言で肺がんといっても、肺の細胞ががん化した場合の「原発性肺がん」と、肺以外の臓器(大腸、肝臓、乳房等)で発生したがんが転移した先の肺で増殖した場合の「転移性肺がん」とでは、がん細胞の性質そのものが異なるのだ。
現在の住民票が東京都(肺)だからといって、生まれも育ちも東京都とは限らない。その人物(がん)の本性を知るには、故郷(原発巣)を見極めることから始めねばならない。東京医科大学病院呼吸器外科准教授の坪井正博さんは、こう言う。
「『転移性肺がん』か『原発性肺がん』かの診断は、治療方針を決定するうえで、重要な意味を持っています。肺の細胞から発生していれば、肺がんの治療を行うわけですが、最初に発生した臓器の特徴をもっている『転移性肺がん』の治療は、原発巣がどこかによってそれにあった治療を行わなければなりません。
たとえば、『転移性肺がん』の故郷が大腸がんだった場合には、肺がんではなく、大腸がんの治療をしなければなりませんし、それとは逆に、肺がんが大腸に転移した場合には、大腸がんではなく、肺がんの治療をする必要があるのです」
このように、がんが発生したもとの場所(原発巣)が、転移先での治療方針を左右することになる。
X線写真に写った影をどう診るか
肺がんの検査で最も一般的なのは「胸部単純X線写真」。そのレントゲンに写った肺の影を専門家はどのように診断するのだろうか。
「レントゲンの影に関しては、まずはじめに、正常に見えなくてはいけないものがちゃんと見えているかどうか、異常な影があれば、肺結核や肺炎といった炎症によるものなのか、新しく出てきた腫瘍なのかを見極めます。その後、良性なのか悪性(がん)なのか、がんなら原発性か転移性かの診断へと進めるわけですが、レントゲンの画像だけでは診断しきれないことが多いです。」
というのも、レントゲンの場合、肺に近接する骨や心臓、動脈の影が邪魔して平面的な画像には写らない部分(死角)ができてしまう。また、放射線の透過能力によって、(単純に言えば)炎症やがんといったモノのある場所を白く、空気を黒く映し出すレントゲンから得られるのは、極端に言えば染色情報(撮影された色による診断)がメイン。そのため、ある程度がんが進んだ状態になると見えてくるがんの影の辺縁(まわり)の毛羽立ちやいびつな形までは写らないことが多い。よって、解像力に優れたCTやMRIによる立体的な画像検査が必要になるのだ。
検査画像にみる転移性肺がんの特徴
典型的な転移性肺がんの例
典型的な転移性肺がんの3次元画像
X線写真では1次元(平面的)な情報しか得られなかったが、CTでは2次元、最新のヘリカルCTにいたっては3次元(立体)画像診断が可能である。
「転移性肺がんの見た目の特徴としては、クリッと丸い形をしていて境界明瞭な点があげられます。他の臓器から血液の流れにのって転がってくる過程で表面の角が取れ、細胞の輪郭がくっきりした形状をイメージしてみてください。一方の原発性肺がんは、表面がにじんで見えたり、ギザギザして見えたりします。こうしたそれぞれの特徴を画像と実際の手術の現場で経験している医師であれば、転移性と原発性の区別は8割方つくと思います」
では、MRI検査では何を診るのだろうか。
「MRIでは、がん細胞内の水分量、出血、線維化、壊死など細胞内部の組織組成に関する情報が得られます。内部が壊死しているのは転移性の特徴。細胞の形だけでは判別しがたい場合やCTで壊死がとらえられない場合は、MRIによって質(中身)を検証することもあります」
がんの術前評価として行われる、このほかの検査について、坪井さんは次のように話す。 「ポコっと単発でできたときには生検を行いますが、区別がつきにくい場合は手術をして調べることがコンセンサス(合意)となっています。腫瘍マーカーに関しては、前立腺がんのPSA(前立腺特異抗原)以外は、特定のがん種に限定された腫瘍マーカーはほとんどないと言っていいでしょう。大腸がんなど消化器系のがんに良く関係すると言われているCEA(がん胎児性抗原)が高値を示した場合でも、この腫瘍はCEAを出しやすいがんという認識はもちますが、そこから原発巣を特定できるわけではありません。術前の診断よりも、むしろ治療効果を見る際に腫瘍マーカーは有効。治療経過中に、CEAだけが急に高くなった場合、『新たにがんができたのではないか』、『前のがんがぶり返したのではないか』といった可能性を考えますから」
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