新しい抗がん剤TS-1やタキソールの出現で生存率も上昇 ここまで進んでいる進行・再発胃がんの化学療法
北里大学東病院
消化器内科講師の
小泉和三郎さん
かつて、「胃がんに効く抗がん剤はない」と言われていた。しかし、この胃がん治療は99年を境に一変。日本の医療現場にTS-1をはじめ、イリノテカン、タキソール、タキソテールなど、新しい抗がん剤が次々に登場し、奏効率、生存率が向上している。その現状と今後の展望をレポートする。
進行・再発胃がんの治療は90年を境に一変
患者にとっては受難を強いられてきた進行・再発胃がん治療の歴史に新たな時代が訪れている。
「治るがん」の代名詞ともいわれる早期がんとはうらはら、他の部位にがんが転移している進行・再発胃がんは手術不能のケースが多く、抗がん剤治療に頼らざるを得なかった。もっともその抗がん剤に決め手となるものがなく、治療成果は低迷を余儀なくされていたのが実情だった。
しかし最近になって、国内外で画期的な効用を持った新しい薬剤が相次いで登場し、各国で競うように、いくつもの臨床試験が行われているのだ。
じっさいにどんな抗がん剤が用いられ、どの程度の効果があがっているのか。そして将来的にはどんな可能性が開けているのか。日本の消化器がんの抗がん剤治療をリードしている1人、北里大学東病院消化器内科講師の小泉和三郎さんを訪ねて、進行・再発胃がん治療の最前線の状況を聞いてみた。
「90年を境に進行・再発胃がんの治療は一変しました。この年にプラチナ系の抗がん剤であるシスプラチンが胃がん治療薬として承認されました。それからこのがんの治療成績は飛躍的に向上を続けているのです」
小泉さんは開口一番、このがんに対する抗がん剤治療のエポックメーキングとなった新薬の登場について話してくれた。
「進行・再発胃がんは転移の仕方によって、周囲の臓器へ浸潤または局所のリンパ節に転移する腹部限局型、肝臓に転移する肝転移型、血液を介して全身に転移する遠隔転移型、腹膜にこぼれ落ちる腹膜播種型の4タイプに分かれますが、いずれの場合も症状が進み手術が適応されない場合は、消化器がんで効果が実証されている5-FU(一般名フルオロウラシル)やUFТ(一般名テガフール・ウラシル)、マイトマイシンなどによる単剤治療に頼らざるを得なかった。もっとも治療成績は伸び悩み、奏効率は20パーセント、延命期間も4カ月が精一杯といったものでした。それがシスプラチン(商品名ランダ、ブリプラチン等)の登場で治療成績が飛躍的に高められたのです」
99年にブレークスルーが訪れた
当時、すでに海外では5-FUとシスプラチンの併用療法がスタンダードになっており、作用機序という点でも双方の薬剤が補完関係にあることがわかっていた。そこで日本でも5-FUやその進化型の薬剤とシスプラチンを組み合わせた何種類もの併用療法の臨床試験が行われる。小泉さんもすでに実用化されていた5-FUの進化型ともいうべき抗がん剤のフルツロン(一般名ドキシフルリジン)とシスプラチンを組み合わせた併用療法の臨床試験を行っているが、その結果、奏効率50パーセント、延命期間9カ月という、当時としては画期的な治療効果が明らかになっている。
そして、それから10年近くが経過した99年に新たなブレークスルーが訪れた。この年から翌年にかけてTS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)をはじめ、イリノテカン(商品名カンプト、トポテシン)、タキソール(一般名パクリタキセル)、タキソテール(一般名ドセタキセル)と新しい抗がん剤が相次いで進行・再発胃がん治療の現場に登場しているのである。
そのなかでもその効果の高さから、現在の治療の主流になっているのがTS-1だ。
この薬剤は日本で開発された、やはり5-FUの進化型の抗がん剤で、体内で5-FUの抗がん成分を高濃度に保つ特性を持っている。副作用も5-FUに比べると軽微で、利用しやすい経口タイプであることも特長だ。
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