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手術困難な高齢者の早期胃がんにも適用できる レーザーと内視鏡の併用療法「EMR-PDT」

監修●東野晃治 大阪府立成人病センター消化器内科診療主任
取材・文●塚田真紀子
発行:2006年3月
更新:2019年8月

  

手術が必要な粘膜下層の浸潤がんも、レーザーとの併用で内視鏡的治療が可能に

東野晃治さん
大阪府立成人病センター
消化器内科の
東野晃治さん

近年、内視鏡的治療の発達により、早期胃がんの多くが手術をしなくても治療できるようになっている。患者のQOLを向上させるという点で、内視鏡的治療のメリットは大きい。だが、これまでは粘膜内の早期がんだけが対象とされ、粘膜下層に浸潤したがんは「内視鏡では治療できないがん」とみなされるのが実情だった。そんな中、大阪府立成人病センター消化器内科の東野晃治さんらは、レーザー治療(光線力学的療法=PDT)に内視鏡的な治療を併用した新しい治療法「EMR-PDT」を積極的に採用。内視鏡治療でがんを取り除いた後、レーザー光線を照射して残存するがん細胞を全滅させる新しい治療法により、大きな成果を上げている。

レーザー光線で「がん」を破壊

今では、早期胃がんの多くが内視鏡で治療できるようになった。高齢だったり、持病を抱えていたりして手術のリスクが高い人にとって、内視鏡的な治療はとりわけ貴重な選択肢だ。

ふつう早期の胃がんの場合、がんの大きさが2センチ以下で、悪性度の低いもの(分化が高いといわれる)、しかも粘膜に留まっているものに対して、内視鏡による、粘膜切除術(EMR)や切開・剥離術(ESD)が行われる。

内視鏡で治療できるのは、粘膜内に留まる早期がんだけ。それより深い部分のがんだと、たとえ早期がんでも手術になる。

この場合、手術を受けられない人たちは、代わりに抗がん剤治療を受けることになる。高齢で体力がない場合、抗がん剤は大きな負担になる。また、がんに直接作用するわけではないから、効きにくい。局所の治療ができるのであれば、そのほうが抗がん剤治療よりメリットが大きいといえる。

そのような状況で、レーザー治療(光線力学的療法=PDT)に内視鏡的な治療を併用した新しい治療法(EMR-PDT)が、直接、がん細胞を死滅させることのできる方法として、注目されている。

これは、内視鏡治療でがんを大まかに取り除き、その後、レーザー光線を照射して、残ったがん細胞を全滅させるというやり方だ。

PDTで長期の延命も可能に

もともと、大阪府立成人病センターでは、1980年代からレーザー光線を単独で胃がん治療に用いていた。やはり、「内視鏡では治療できないがん」が対象だった。リンパ節転移のないことが大前提で、具体的には、次の4つの場合が主に治療の対象になる。

(1)潰瘍などがあるために、EMRがうまくできない粘膜のがん(Mがん)や粘膜下層のがん(SMがん)。

(2)内視鏡の治療を受けたものの、がん細胞が残っていることが判明したり、再発したりした場合。

(3)早期胃がんで、手術が必要とされる状況でありながら、高齢だったり、呼吸器系や循環器系の持病があったりして手術を受けられない人。また、手術を拒否している人の場合。

これらの場合は保険が認められている。

ちなみに、胃がん以外でPDTに保険が効くのは、食道の表在がん、初期の子宮頸がん(異形成を含む)、早期肺がんなどだ。

同センター消化器内科の東野晃治さんが説明する。

「“おそらく転移はないけれども、内視鏡で治療するには深すぎるところにがんがある”そういう場合に、レーザーは有効な治療法です。部分的にしか治らないので、リンパ節転移のある場合には行っていません」

これまでに同センターでは、137人に対してPDTを行っている。患者の年齢は54~91歳で、多くは70歳代だ。胃に穴が開くような事故は1件も起きていない。1人だけ、輸血が必要だった。

PDT単独の治療の結果、粘膜の一番浅いところにできるMがんの治癒率は95パーセントだった。その下の粘膜下層に浸潤しているSMがんの場合は70パーセントにとどまった。

「PDTによって、その部分のがん細胞がなくなった人(局所治癒した人)では5年生存率が100パーセントでした。一方、がん細胞が残ってしまった人(局所治癒しなかった人)の場合は、5年生存率が0パーセントという結果が出ています」

つまりPDTは、効果的に行えば行うほど、長期的な延命が期待できる治療法だといえる。

[胃壁の構造図]

胃壁の構造図

レーザーと内視鏡の併用により粘膜下層にまで進んだがん(SMがん)でも切らずに治せるようになった。筋層までのがんなら治療可能


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