乳がん罹患経験から、在米邦人の手助けとなる存在へ

正しい情報発信は、患者自身の力になる

取材・文●吉田燿子
発行:2013年10月
更新:2016年4月

  

がんを患うと、人は不安になる。それが、海外ならばなおさらだ。山本さんは、米国での乳がん罹患経験を活かし、米国在住の日本人乳がん患者さん向けに治療や治療後の必要かつ有効な情報を提供している。その活動は、日本国内や一般向けにも広がりをみせている。


山本眞基子 さん(BCネットワーク創立者・代表)

山本眞基子 やまもと まきこ 
1958年兵庫県生まれ。東京女子大学英文科卒業後、ニューヨークの大学でマーケティングを専攻。卒業後、米国証券会社の機関投資家向け営業として10年間勤務。1997年に早期乳がんを発症し、治療を実施。コロンビア大学病院附属の乳がん患者団体の理事として10年間活動。2005年、日本人乳がん患者とともにBCネットワークを設立。2009年より日本でも本格的に活動を開始 

山本さんの経過

1997年 2月 右胸にしこりを見つける。コロンビア大学附属病院で、Ⅱ期乳がん(ルミナルA・リンパ節転移有り)と診断。
温存術後、化学療法・放射線療法・ホルモン療法を受ける
2004年 4月 レントゲン検査・胸腔鏡下肺生検で、右肺転移が見つかる。
外科手術後、ホルモン療法(フェマーラ)を受ける。副作用は特になし。6カ月に1度の全身検査
2011年 腫瘍拡大により、フェマーラをアロマシンに変える
2012年 腫瘍拡大により、アロマシンをフェソロデックスに変える
現 在 毎月の通院によるホルモン療法中。
副作用(頭痛・イライラ・筋肉痛・関節炎)に悩さされるも、再発以来始めたヨガ、ストレッチ、テニスで毎日を楽しみながら過ごす

現在、米国で暮らす日本人の数は約40万人。なかでも、ニューヨーク都市圏に住む在留邦人は5万人以上といわれる。

だが、なかには米国滞在中にがんを発症し、闘病生活を送っている人もいる。言葉も医療制度も違う外国では何かと勝手が違うことも多く、戸惑う患者さんも少なくない。

こうした患者さんを支援しようと、2005年、ニューヨークでBCネットワーク(Young Japanese Breast Cancer Network)が設立された。その代表理事を務めるのが、山本眞基子さんだ。自らも38歳で乳がんを患い、7年後に再発。現在はホルモン療法を続けながら、在米乳がん患者さんの支援活動に取り組んでいる。

「告知を受けた患者さんや、米国で闘病中の患者さんからは、『英語があまりできないので、日本語の情報が欲しい』『病気や治療法について、日本語でもっと理解したい』という声が寄せられます。また、ニューヨーク在住の日本人女性の中には、フリーランスで保険未加入という方も少なくない。そのため、医療費に関する相談も多いのが実情です」

そう語る山本さん。現在は、ホームページで情報発信を行うかたわら、ニューヨークと日本で乳がん患者さん向けのセミナーを主宰。国境を越えて啓発活動を行っている。

38歳のとき右胸にしこりを発見

自らの担当医でありBCネットワークのメディカルディレクターでもあるシュナベルさん(中)、運営メンバーの三輪さんと

都内の女子大を卒業した後、ニューヨーク大学に留学。卒業後は米国証券会社に就職し、日本の機関投資家を担当する営業として活躍した。ウォール街で過ごした10年間は、その後のBCネットワークの活動に大いに役立った、と山本さんは語る。

「日本の患者会と違って、米国の患者会では、イベントで参加費を払うことはあっても、会自体の会費を徴収することはありません。『私たちの団体になぜ寄付すべきか』という趣旨を説明すれば、製薬会社などから、割合と簡単に寄付を受けられるからです。証券業界での営業経験は、こうした交渉に活かされていると思います」

在職中に今の夫と出会い、30代半ばで子育てのため退職。異変に気づいたのは、それからまもなくのことだ。

1997年2月、米国人の友人から、「自分の胸にしこりがあるようなので、病院に行く間、息子を預かってほしい」と頼まれた。その夜、自分でも試しに胸を触ってみると、右胸にマーブルチョコのようなしこりがあるのに気づいた。

翌朝一番で、ニューヨーク郊外の自宅近くにある、かかりつけの婦人科を受診。近所の乳腺外科医を紹介してもらい、マンモグラフィなどの検査を受けた。右胸に怪しい影が見つかったが、乳腺外科医の見立ては「良性腫瘍」だった。

「君は日本人だし、38歳だから、乳がんの確率は少ないよ」

当時、米国の医療界では、「日本人は乳がんになりにくい」と信じられていたためだ。

近くの総合病院で「良性腫瘍の切除手術」を受けたが、患部を見て、執刀医は「がん」だと直感。そのまま傷口を閉じた。

「残念ですが、これはがんです。日をあらためて、全摘か温存かを話し合いしましょう」

だが、二転三転する診断に不信感を抱いた山本さんは、コロンビア大学附属病院の乳腺外科医フリヤ・シュナベル医師のもとを訪れた。ここで2回目の告知を受けたときのことを、今も鮮明に覚えている。

「あなたは30代でしかもアジア人なのに、乳がんなんかになって踏んだり蹴ったり、という気持ちでしょうね。よくわかります。今日1日は泣いたり、ものに当たったりして発散して下さい。でも、明日からは治療に励まないとダメですよ」

国民皆保険制度がないアメリカの特殊事情

山本さんの右胸には約1.2cmの腫瘍があり、2カ所にリンパ節転移が見つかった。診断はⅡ期。主治医と相談の上、山本さんは乳房温存手術を受けることにした。術後は7カ月にわたって化学療法を行い、放射線療法も受けた。抗がん薬はCMFを使ったが、幸い、脱毛以外の副作用は軽く、リハビリを兼ねてテニスなども楽しんだ。その後は5年間、経口ホルモン薬の服用を続けた。

ところで、米国は日本と違って、国民皆保険制度がない。このため、高額の医療費は民間の医療保険でまかなった。

「米国では保険に加入しているかどうかで、受けられる医療にかなりの差が出てきます。その反面、低所得で保険に加入できない人でも、必要な医療を受けられるだけのセーフティネットが用意されている。過去には、保険未加入の日本人女性が、ニューヨークの市民病院で乳がんの手術を受け、乳房再建までした例もあります」

CMF=シクロホスファミド(商品名エンドキサン)+メトトレキサート(商品名メソトレキセート)+フルオロウラシル(商品名5-FU)

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