患者のためのがんの薬事典
スチバーガ(一般名:レゴラフェニブ)進行・再発大腸がんと消化管間質腫瘍の新たな治療選択肢
手術で切除できない進行・再発大腸がんに対する3次治療以降の治療薬として、今年5月にスチバーガが発売されました。スチバーガは、がん細胞の増殖にかかわるタンパク質に働き、そのシグナル(指令)をブロックすることによりがんの進行を抑える、経口の分子標的薬です。さらに8月には、消化管間質腫瘍(GIST)の3次治療以降に対しても追加承認され、その効果に大きな期待が寄せられています。
進行・再発大腸がんの3次治療以降の新選択肢
早期大腸がんの治療では、根治を目指して、まず手術が検討されますが、切除できない進行・再発大腸がんの場合は、薬物療法を行うことになります。最近は、切除できない進行・再発大腸がんに対する薬物療法の治療成績が飛躍的によくなりました。抗がん薬多剤併用療法のFOLFOX療法*やFOLFIRI療法*に、アバスチン*、アービタックス*、ベクティビックス*などの分子標的薬を組み合わせるようになり、奏効率*も生存期間も大幅に改善されてきました。
その一方で、課題も残されていました。1次、2次治療はほぼ標準治療が確立しているものの、その後の3次、4次治療となると、薬の選択肢がなくなってくることです。そこに登場したのがスチバーガです。
スチバーガは、進行・再発の3次治療以降の大腸がんに対し、スチバーガ群とプラセボ(偽薬)群を比較した「国際共同第Ⅲ相臨床試験」において、その有用性が確認されました。現存の治療が効かなくなった患者にとって、治療の選択肢が増えたことは大きなメリットといえます。
*FOLFOX療法=5-FU(一般名フルオロウラシル)+アイソボリン(一般名レボホリナート)+エルプラット(一般名オキサリプラチン) *FOLFIRI療法=5-FU(一般名フルオロウラシル)+アイソボリン(一般名レボホリナート)+イリノテカン(商品名カンプト/トポテシン) *アバスチン=一般名べバシズマブ *アービタックス=一般名セツキシマブ *ベクティビックス=一般名パニツムマブ *奏効率=がんが4週間以上完全に消失した「完全奏効(CR)」と、4週間以上にわたりがんの長径が30%以上縮小した「部分奏効(PR)」の症例数を足し、さらにそれを患者総数で割った数
空腹時や高脂肪食後の服用は避ける
スチバーガは飲み薬(経口)の分子標的薬です。がん細胞の増殖シグナルをブロックしたり、がん細胞に栄養や酸素を送る血管ができるのを防ぐことで、がんの進行を抑える作用があります。
前述の臨床試験結果を見ると、全生存期間(OS)の中央値はスチバーガ群が6.4カ月、プラセボ群が5.0カ月で、スチバーガを使用したほうが有意に延長しました(図1)。
また、大腸がんの分子標的薬には、KRAS遺伝子検査を行い遺伝子変異のない場合にのみ使える薬もあります。スチバーガはそのような遺伝子変異の有無にかかわらず有用性が認められていることも、長所と言えます。
スチバーガの投与方法は、「3週間連日投与+1週間休薬」を1サイクルとし、これを繰り返します。1日1回、160mg(4錠)を食後に服用しますが、その際、脂肪分の少ない食事をとり、食後30分以内に飲むことがポイントです。
これは、空腹時や高脂肪食の後に服用すると、スチバーガの主成分であるレゴラフェニブやその代謝物の薬効が低下してしまうからです。服用前に脂身の多い肉や揚げ物、バター、生クリームなどをとるのは避けましょう。
最も多い副作用は手足症候群
切除できない進行・再発大腸がんの薬物療法では、副作用をうまくコントロールすることも大切です。スチバーガの場合、とくに多い副作用は手足症候群で、日本人患者の約80%に発現しています。
手足症候群の症状は、手や足の裏がピリピリまたはチクチクする、痛い、赤く腫れるなどです。重症化を防ぐために、スチバーガの服用が決まった時点から、保湿クリームを塗布して手足の乾燥を防ぎましょう。また、服用中は長時間の運動や立ち仕事など、手足への負担をなるべく避けることも大切です。
このほかの副作用としては、血圧の上昇、発声障害(声がかれる)、発疹、下痢、食欲減退、疲労などがあります。
さらに、頻度は高くないものの重い副作用として肝機能障害、消化管出血、消化管穿孔(消化管に穴があく)、血栓塞栓症(血管に血のかたまりができる)、皮膚障害などがあります。服用中に、なんらかの症状が現れたときにはすぐ主治医に相談します。「この程度なら我慢できる」などと、頑張りすぎないことが肝要です。症状が重くなる前に休薬したほうが、結果的に治療を長く続けられる場合もあるからです。
5年ぶりの新たなGIST治療選択肢
もう1つ、スチバーガで注目されるのは、消化管間質腫瘍(GIST)に対する効果も証明されたことです。この薬を使えるのは、がん化学療法後に病勢が進んだ消化管間質腫瘍です。
消化管間質腫瘍は、消化管の粘膜から発生する胃がんや大腸がんと違い、粘膜より奥の筋層の部分にできる肉腫です。
切除のできない進行・再発消化管間質腫瘍には薬物療法を行いますが、1次治療はグリべック*、2次治療はスーテント*という分子標的薬が使われます。3次治療に使える治療薬がないことが課題とされていましたが、今回新たにスチバーガという選択肢が加わったわけです。
グリベックとスーテントによる治療後に病勢が進んだ消化管間質腫瘍患者に対し、スチバーガ群とプラセボ群を比較した国際共同第Ⅲ相臨床試験があります。これによると、無増悪生存期間(PFS: がんが進行することなく生存している期間)の中央値は、スチバーガ群が4.8カ月だったのに対し、プラセボ群は0.9カ月でした。スチバーガ群では5倍以上も延長されたのです(図2)。
服用方法は大腸がんの場合と同じです。スチバーガの登場は、消化管間質腫瘍患者さんにとっても、朗報といえるでしょう。
*グリベック=一般名イマチニブ *スーテント=一般名スニチニブ
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