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患者のためのがんの薬事典

ジェムザール(一般名:ゲムシタビン)
穏和な副作用で脚光を浴びる新しい薬

文:荒川直樹
(2004年2月)

膵臓がんは、早期発見が非常に難しく治療の難しいがんのひとつだ。 患者にとって朗報は、2001年に日本でもジェムザールが使えるようになったこと。 がんの進行をくい止め、患者の苦痛をやわらげる抗がん剤治療を可能にする、 患者にとって無くてはならない薬だ。

患者の力によって早期の承認が実現した

最近、世界中で次々と新しい抗がん剤が開発されています。これらは特効薬というほどではないものの、従来の抗がん剤より効果が強く副作用が少ないという特徴を持っています。しかし、日本では医薬品承認制度の壁があり、使えるようになるまで時間がかかりすぎるという問題があります。

ジェムザールもそうした医薬品のひとつです。この薬は、イーライリリー社が開発したもので、1996年に膵臓がん治療薬としてアメリカで承認されました。進行膵臓がんには有効な抗がん剤が少ないため、世界中でジェムザールの単独投与が膵臓がん治療の第一選択薬になりました。さらにアメリカでは、2年後の98年にジェムザールとブリプラチン(一般名シスプラチン)の併用が進行性小細胞肺がんの第一選択薬として承認されています。

日本でジェムザールが承認されたのは99年のことですが、そのときの適応症は非小細胞肺がんのみでした。膵臓がんには健康保険が適用されないため、患者は高額の医療費の負担などさまざまな不便を強いられてきました。そのため患者たちは「ジェムザールを承認しない政府は、私たちの生存権を侵害している」と5万人以上の署名を集めて、2001年の1月に当時の坂口力厚労大臣に提出。その甲斐もあって、同年4月に膵臓がんへの適応拡大が認められました。

5-FUよりも効果が強く脱毛などの副作用が少ない

ジェムザールは、DNA合成阻害薬という分類に属する医薬品のひとつです。古くから使われている5-FU(フルオロウラシル)に近い作用メカニズムを持っているのですが、阻害効果が格段に強められています。

そのため、これまで5-FUなどが効かなかった進行膵臓がんでも単独でかなりの治療効果が期待できるようになりました。 海外の臨床効果では、腫瘍縮小効果はそれほど高くありませんでしたが、痛みなど症状緩和の効果が23.8パーセントと、5-FUの場合(4.8パーセント)と比較して格段に向上しました。つまり、ジェムザールは、がんは縮小させないけれど患者のQOL(生活の質)を高めながら延命をはかるという、新しい考え方で承認された医薬品といえます。

日本でも、国立病院九州がんセンター、九州大学病院など9施設が共同で臨床試験を行っています。これは肝臓に遠隔転移するなどかなり進行した膵臓がん患者49名を対象としたものです。その結果、腫瘍が縮小したのは5名でしたが、5-FUと比較して延命期間を大幅に延ばすことが認められました。

非小細胞肺がんについては、海外の臨床比較データではジェムザール単独で使用した場合の奏効率(腫瘍の大きさが半分以下になる率)は12パーセントでしたが、プラチナ製剤であるパラプラチン(一般名カルボプラチン)と併用することで30パーセントに向上したという報告があります。

1週間に一度の点滴なので外来でも投与可能

膵臓がん、非小細胞肺がんとも、ジェムザールの投与方法は点滴静注で、週1回の注射を3回繰り返し1回休むという方法を繰り返します。しかし、抗がん剤の専門医は副作用や症状の改善度などを見ながら、隔週投与などに変更するなど投与法の調整を行う場合があります。

膵臓がんの場合単独投与も行われますが、非小細胞肺がんに用いる場合は、プラチナ製剤との併用が中心です。なお肺がんの場合、ジェムザールと放射線治療との併用はできません。海外の報告で、ジェムザールが正常な臓器の放射線感受性を高め、放射線治療の副作用を増強する可能性が指摘されているからです。

ジェムザールの副作用は、5-FUと比較すれば少ないといえます。脱毛や激しい吐き気などは、あまり起こりません。しかし、白血球の減少によって感染しやすくなる、血小板の減少によって出血しやすくなるといった多くの抗がん剤に見られる副作用はありますので、副作用のサインなどについて主治医から詳しく聞いておく必要があります(下表参照)。

■ジェムザールの副作用
一般的に起こりうる副作用
白血球の減少(感染症にかかりやすくなる)
血小板の減少(出血しやすくなる)
気分が悪くなる(悪心)
嘔吐する
血液検査で肝機能の数値が悪くなる
疲れやすくなる
それほど一般的でない副作用
下痢
口や唇のただれ
投与初期にインフルエンザ様の症状(頭痛、筋肉痛、発熱、鼻づまり)を起こす
発疹や痒みなどの皮膚症状
手、くるぶしや顔のむくみ
脱毛で髪の毛が薄くなる
まれに起こる可能性のある副作用
鎮静

また、ジェムザールのように使用経験の浅い抗がん剤では、新たな副作用が発見される場合もあります。体の不調が現れたら、すぐに医師と相談してください。

将来は乳がんなどにも適応が拡大される可能性

副作用が少なくて効果が高い。こうしたジェムザールの特徴に、いま抗がん剤治療の専門家が注目しています。すでに進行した胆管がんの治療では、ジェムザールとカンプト(あるいはトポテシン、一般名塩酸イリノテカン)の投与が第一選択と考えられていますが、やはり健康保険の適応の壁が患者の前に立ちはだかっています。

また、昨年6月、欧州ではジェムザールが乳がんの治療薬として承認されました。これは術後補助療法を行った後に再発した乳がんで再手術が不可能な場合、遠隔転移が認められる場合などを対象とした、いわゆるセカンドライン(他治療が効かない場合に試してみる治療法)の治療薬としての認可です。

このように抗がん剤治療は、いま次々と新しい試みが行われています。患者も、抗がん剤治療に詳しい専門医と相談しながら、納得のいく医療を受けることが大切な時代だといえます。

くすりのメモ

商品名:ジェムザール注射用1g
成分名:塩酸ゲムシタビン
発売元:日本イーライリリー

どんながんに使われるのか:
健康保険が適用されているのは、肺がんの約8割を占める非小細胞肺がんと膵臓がんです。共に手術のできない進行がんや、手術後の再発例などに使われますが、とくに進行した膵臓がんではジェムザールが第一選択薬になっています。

使用法:
点滴による注射薬です。1週間に1回、病院で1000mgを30分かけて点滴するのを3週間連続し、4週目は休薬します。これを1コースとして、患者の様子を見ながら繰り返します。

治療費はどれぐらいか:
健康保険が適用されます。3割の自己負担の場合は、1コースで約5万円程度です。

1本(1g)の薬価は2万9836円です。