マインドフルネス・ヨガ:それでいいのだ! 第16回 バランス力を高める <木のポーズ>

森川那智子 こころとからだクリニカセンター所長
(2019年9月)

もりかわ なちこ こころとからだクリニカセンター所長。カウンセラー・ヨガ指導家。心療内科と提携し、カウンセリングを中心に、ヨガ、リラクセーション、瞑想を取り入れた療法で、心と体のサポートに取り組む。『なんにもしたくない!』(すばる舎)『リラックスヨガ』(成美堂出版)『心がラクがずっと続くヒント』(青春出版社)など著書多数

こういうのも悪くないかもしれない、そのときはじめて思いました。エスカレーターの乗り方の話です。

めったにないことですが、その短めのエスカレーターには、1段に1人か2人、左右どちらの人もその場に立ち止まっていました。どうやら「エスカレーターの乗り方改革」というのは、こういう乗り方を推奨しているようです。

歩くか立ち止まるか、私の場合は半々でした。左側に長い列ができているようなときは、右側の歩きを選択し、しばらく歩いて疲れてきたら、空いている左に移動、気が向けばまた右に出て歩くとか、気分次第の緩い乗り方をしていました。大江戸線(都営地下鉄)のエスカレーターは長いのです。

急ぐ人は右側に、立ち止まる人は左側に(大阪は左右反対)というは、なかなか気の利いたルールです。

いつごろからこのルールが定着したのか、記憶をたどると、新御茶ノ水駅(東京メトロ千代田線)に当時は日本一長いエスカレーターが登場したあたりだったような。海外への旅行者が増え、「片側は急いでいる人のために空ける」とロンドンの地下鉄ルールを体験した人が広めた可能性も。

母はエスカレーターに乗る際、怖いからといつも手すりにつかまっていました。それも利き手である右手で手すりを持ちたいと、必ず右側に乗り、そのまま止まっていました。立ち止まるなら左側に乗ろうよと言っても、握力が弱い左手ではつかまっている安心感がないと言うのでした。

80代の母が外出できていた平成10年代でも、歩かない人は左側でした。歩く人は母のところで左に移りまた右にと、蛇行して駆け上がっていきます。

右側に乗って歩かないのは周りの迷惑になりそうで、母に同行するときは歩く人に「すみません」と私は小声で声をかけていました。

懸念される「エスカレーター乗り方改革」

東京オリンピックに向けて今よりもっと旅行客が増えるから、エスカレーターでのトラブルを防ごうというキャンペーンが「エスカレーター乗り方改革」らしいです。

初めてそのポスターを見たときは、いや~な感じがしました。男性女性が片側ずつにびっしりと詰めて乗っているイラストです。「片側は急いでいる人のために空ける」というルールのほうが、ゆとりがあるように感じました。

混雑時には、両側に立つこの乗り方のほうが効率的という実験結果があるそうですが、長い長いエスカレーターを隙間なく埋め尽くすような乗り方は、圧迫感が半端ない。

長い列を並ぶのが面倒で右側に乗ったら、たとえ疲れていても私は歩きます。止まっていてもトラブルにならないかもしれないけれども……。それがごく一般的な心理のようで、このキャンペーンが始まってから少しずつ、左側に乗る人が増えて、左側に乗るための長い列がますます長くなっています。

自然発生的にできたルールを本当に変えないといけないのかな。このキャンペーンを思いついたのは誰なのだろう? どれくらいの予算がついているのだろう? あえて右に乗って立ち止まろうという人はどんな人なのだろう? エスカレーターに乗るときは歩くなというプレッシャーを感じて、私も左側に乗る比率が多くなってきました。

大阪のラッシュ時では、止まる歩くの選択ではなく、歩く駆けるの選択と聞きます。そういうときに立ち止まるのを選択するのは、それこそトラブルのもとだという気がしますが,これからどうなっていくのか、ウォッチングしていきたいテーマです。こういうのをつらつら観察するのは、わたしの楽しみの1つです。

そうか、母も周囲がどう反応するのか楽しんでいたのかも、と今気づきました。娘たちには見せなかったけど、ユーモアのある楽しい人でしたとヘルパーさんは言っていました。

階段もエスカレーターも下りのほうが難しい

さて足腰が弱っている人や高齢者にとって、階段もエスカレーターも、下りのほうが難度が高くなります。というのも年齢とともに思いがけないほど平衡感覚が低下するためです。

健常者にとっては階段を上るほうがきついので、1つしかエスカレーターがないところでは必ず上りのエスカレーターになっています。でも足を怪我したときを思い出してほしい。階段は下りのほうがつらかったではなかったでしょうか?

エスカレーターも下りのほうが乗った瞬間に、足を取られる不安があると言います。

今月紹介したいのはバランス力を高める<木のポーズ>です。

ヨガは好きでも、バランス系のポーズは苦手という人は少なくありません。苦手なポーズは億劫(おっくう)なものです。しかもバランス系のポーズの場合、どこかがきつい、痛いというのとは違います。

まず壁の横に立って、いつでも壁に手をつけられるポジションで行います。

最初は上げる側の足のつま先を床につけた状態で始めます。これで大丈夫そうだったら脛(すね)のところまで足を引き上げ、さらには写真のように膝(ひざ)上のところまで、手を使わないで上げていきます。静かに呼吸しながら、少しスマイルするとどういう違いがあるか観察してみてください。

あきらめずにやっていくと、足首や足底の筋力もついてきます。

<木のポーズ>

木のポーズ1

①両足をそろえて立つ。目線を前方の1点に決めて、左足を軸足とする。右足を左足の前にクロスさせ、つま先をつけて安定させる。

木のポーズ2

②目は前方1点を見たまま、右足の位置を左足を伝って上げられるところまで(脛でもいい)あげる。胸の前で合掌する。

木のポーズ3

③静かに両手を上方に挙げていく。そのまま4~8呼吸。静かに右足を下ろし、今度は左右の足を反対にして行う。

 

がんサバイバーやそのご家族でヨガのご体験がありましたら、ぜひ体験記などをお寄せください。kokokara@center.email.ne.jp

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