マインドフルネス・ヨガ:それでいいのだ! 第20回 「ため息」でマインドフルネス① <イスで行うヤシの木のポーズ>
ほとんどの時間、私たちは自分の呼吸を意識しないで生活しています。しかし、呼吸(息)という言葉の入った〝からだ言葉〟に注目してみると、呼吸が、その瞬間の心とからだの状態を見事に表現していることがわかります。
からだ言葉とは、手とか目とか、からだの部位の名称を含んでいる熟語や慣用句のことです。単に呼吸というと、外界から酸素を取り入れ、体内で消費して二酸化炭素(CO2)を放出することですが、息という言葉が入ったからだ言葉になると、俄然(がぜん)血肉が通ってきます。
例えば、「肩で息をする」は「浅い呼吸をする」と比べてはるかにリアルな、からだごとの表現です。肩で息をする人物の姿が見えてきそうです。
「息を弾ませる」や「息を殺す」などは、人物の表情や周囲の情景さえ見えてきそうな気がします。他にも、「息苦しい」「息詰まる」「息を潜める」「息を呑む」「ため息をつく」「息がかかる」「息を合わせる」などなど。
最近使ったことがある言葉がありましたか。
近年、日常でからだ言葉が使われる頻度が減ってきているそうです。からだ言葉を使っての表現は、頭だけで考えて反応するのと違って、マインドフルネスのやり甲斐があります。
職場で嫌われる、ため息
知り合いのカウンセラーの方が、「実は私、ため息をつくのがなかなか止められなくて」とおっしゃる。確かに「ため息をつくごとに幸せが逃げる」と聞いたことはあります。欧米のことわざにあるのだそうですね。
果たしてため息は止めなくてはいけないものなのでしょうか。
職場で「他人の行動で、思わずイラっとしてしまうこと」の調査というのがあって、
1位 おしゃべりばかりしている
2位 ため息ばかりつく
3位 電話に出ない
何と「ため息をつく」が2番目に入っています。そうですか、思わずイラっとさせてしまうのですか。
ところで、ため息をつくというのは、実際にどのように吸って吐いているのか。それを知るためには、意識的にため息をついてみるしかありません。ところがこれが意外と難しい。思わず出てしまうのがため息で、それをわざわざ行うのは矛盾しているからです。
マインドフルにため息をついてみる
矛盾しているけど、マインドフルにやってみましょう。
最初は息を「溜める」のですね、きっと。思わず出てしまうのがため息と書きましたが、それはため息について無自覚であるという意味で、何も思っても考えてもいないという意味ではありません。その瞬間、ため息とは全然関係ないことが頭の中を過(よ)ぎったはずです。
そのとき何が過ったのか、それに気づけたらすごいです。マインドフルになるということはそういうことに気づくということなのです。
どうでしょう? 何がしかのプレッシャーを伴うことが頭を過っていたのではないかな。それが溜まって、というか溜めて、「はあ~」と吐き出すわけです。
吐き出すとほんの少し緊張が緩和されます。よく観察すると、肩や首から少しだけ筋肉の緊張が和らぎます。ほんの少しだけど。
ため息エクササイズ
「ああいうため息をつかれるとほんとに嫌だなあ」と思っているため息をついている人を観察して、役者になったつもりで、自分でやってみる。このエクササイズは独りになれるところでやったほうががいいでしょうね。
からだごと真似てみる。よくわからなかったら再び観察。またやってみる。何となく感じがつかめてきます。観察するようになると、自分が思わずため息をついたときにも、「あっ、今、ため息ついた」と気づくようになります。
プレイバック、もう1度ため息をつく。今度は意識して。頭の中をよぎったことや、どんなふうに息を溜めたかにも気づいたのでは。
そしてもう1回、念を入れてマインドフルにため息をつく。「つく息」と共に、胸や肩や首のあたりがどう変化していくのかに気づくかも。
自分が溜めているものへの気づき、心身のストレス反応やそれらが緩む過程にただ気づく。善し悪しのジャッジをするのではなく「あっ、そうなのか」と気づくこと。
この繊細な営みが、ストレスの緩和につながり、日々是好日(にちにちこれこうじつ)というか生活を豊かにしてくれるのではないかな。
ところで、首肩周辺の筋肉が固くなっている人は、呼吸の仕方によってからだのどの部位がどう使われるのか観察するなどの繊細な作業が苦手です。そもそも首肩が凝っていても凝りを感じてないケースさえあります。そこで両腕をゆっくり呼吸とともに動かすことポーズを紹介します。緩やかにマインドフルに行います。肩まわりに筋肉、首や胸の筋肉の柔軟性を増し、呼吸も楽になってきます。
<イスで行うヤシの木のポーズ>
本来は立位で行いますが、イスで行ってもOK。頸や肩をリラックスしながら行います。
①イスに腰かけ、両足を床につける。両腕は脇に垂らす。
②ゆっくり息を吸いながら、両腕を挙げ、「前へならえ」の姿勢に。
③いったん息を吐いて、吸う息で両腕を上方に。
④吐く息でゆっくり両腕を下ろす。4~8回。
次回は、頸や肩や胸やなど呼吸に関与する筋肉群が固く委縮していると、息についての感受性も低下してしまうので、それらをほぐすヨガのポーズその2や、幸せなため息エクササイズを紹介します。
がんサバイバーやそのご家族でヨガのご体験がありましたら、ぜひ体験記などをお寄せください。kokokara@center.email.ne.jp
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