マインドフルネス・ヨガ:それでいいのだ! 第57回 寒さに負けず<完全呼吸法>
季節によって、体調や気分が大きく変化する人は決して珍しくありません。
春から夏にかけては気分が上がり、活動的で社交的、仕事や学業にもモチベーションが高く保たれます。ダイエットもうまくいきます。
ところが秋になり日照時間が少なくなるにつれ、活動性や社交性が低下していきます。春夏に始めたトレーニングやフィットネスなどからも、だんだん足が遠のいていきます。雨の日には、ちょっとしたことでもおっくうに感じられ、「だるいなあ」とか「めんどうくせぇ」と愚痴っぽい言葉をもらし、過食、過眠が増え、体重増加でますます気分が落ち込みがちに。
「季節性うつ病」や「季節性感情障害」などとも呼ばれるこうした症状は、やがて季節が巡り軽減していくので、あまり気にならなくなります。
でも今は寒さもピーク、自分を持て余すことも多いのではないでしょうか。
季節性のうつ病や感情障害の対処法
テレビCMで「冬の私は弱いから~」というキャッチコピーを耳にして、そうか、そういえばわたしも昔はそうだったなあと、遠く懐かしいような感慨すら覚えながら思い出しました。
ヨガをはじめてからもう何十年も経ちますが、いつの間にか季節性の心身のアップダウンがなくなっていました。
「季節性うつ病」や「季節性感情障害」の第1の対処法は、「午前中に起床して太陽の光を浴びる」というものです。実験によれば、窓のない部屋に住んでいても、太陽光に模した電気の光を浴びるだけで効果があるのだそうです。また、仕事の関係で午前中に睡眠をとる必要がある人たちも、起床してすぐ、太陽光を模した電気の光を浴びると、実際の太陽光を浴びたと同様の効果を自律神経系や内分泌系にもたらすということです。
植物たちと同じなのですね。実際の太陽とは似ても似つかぬ光を浴びながら、植物たちは光合成をします。
太陽を浴びることにプラスして、ぜひ呼吸法を加えてほしい。
呼吸法を行った後では、別に大きく身体を動かしたわけではないのに、身体が柔軟になり、全身の血液やリンパの流れがよくなっています。新鮮な酸素を取り込めば、寒さで細くなりがちな毛細血管が開いて、じんわりと冷えが解消されていきます。
完全呼吸法:今日できるベスト呼吸
さて今回は「完全呼吸法」を取り上げます。
「完全」というと表現が少々、大袈裟なように感じます。完全という言葉に妙に身構えてしまいそうになります。わたし的には「今日できるベスト呼吸」というほうがふさわしい気がします。
カーテンを開けて、太陽光を浴びながら行えば最高です。
まず座り方です。前々回、片鼻呼吸法を紹介した際、普段の使いやすさを考えて、椅子に腰かける座法を紹介しました。床にバスタオルやマットを敷いて安座や吉祥座など、自分の好きな座り方で行ってももちろんOKです。動画では今回も椅子に腰かけた姿勢を紹介します。
さて、呼吸法はポーズ法などと違って、動画で見てもわかりにくい。しかし、行っている本人にとっては呼吸への意識や腹部や胸郭などちょっとした体の使い方によって、とても大きな変化を体験します。
3回の呼吸で1セットとします。1セットだけでも「今ここ」を味わうことになることでしょう。
<完全呼吸法>
①固めの椅子に腰かけます。ソファなどは姿勢が安定しないので、お勧めしません。浅くても深くても座面に腰を下ろしたら、腰に左右から手を当てて、骨盤をしっかり立てます。背もたれがあっても、使わないで自立します。足の裏を床につけ、脊柱をするすると上方に伸ばします。頭のてっぺんに糸がついていて、その糸がすっと上にひっぱられるイメージをすると、脊柱が無理なくすーっと伸ばされます。両手は腿の上に緩やかに伸ばします。手のひらを上でも下でも内側に向けてもいいです
②息を吐きます。お腹を体に引き込んで十分に吐いてから、
③息を鼻から吸い始めます。お腹を緩め、お腹を少し前に出すようにして(すると横隔膜が下がって肺の容量を増える)、息を吸い始めます。次いで胸郭の下部、真ん中、上部にゆったりと息を満たしていきます。鎖骨のところまで息を満たし、肩が持ち上がると吸いすぎなので、肩を下げます
④軽くアゴを引き1、2秒止めます
⑤ゆっくりゆっくり息を吐いていきます。ふつうに吐いてから、さらにお腹をへこませながら吐くとまだまだ吐けます。十分に吐いてから③へ。3回続けたら、ふつうの呼吸に戻します。これで1セット。もう1セット行います
行うときのポイント
★吸う息と吐く息の長さを1:2にします。心の中でカウントします。1、2、3、4で息を入れます。このとき、1で腹部を拡げる、2で胸郭下部を主に横に拡げ、3で胸を真ん中から上部まで満たし、4で鎖骨まで満たし、肩は軽く下げる。次にアゴを軽く引きながら1、2秒止めて、ここから心の中で8つカウントしながら吐きます。
★呼吸は、吐く息も吸う息も鼻から行います。吐く息が5とか6カウントでなくなってしまう場合、唇をほんの少し開いて口から吐くと、静かにゆっくり吐くことができます。
胸を意識する vs. 肚(丹田)を意識する
息をゆっくり十分に吐くとき、2つの行い方、意識の持ち方があります。
一般的には腹部を意識して「腹を内側に引き込む」、つまり腹直筋を収縮させていく行い方で、吐く息を説明してきました。
この完全呼吸や、前々回に紹介した片鼻呼法の場合でも、吐くときに、「吸う息で広げた胸を保ったまま」と意識しながら息を吐いていくと、自然とゆっくり息が吐けます。吐く息の後半で、腹筋を使ってゆっくり吐き続けます。
もう1つは、息を吐きはじめるとき、まず肚(丹田)を意識します。丹田は東アジアの身心法のキーワードです。ヘソより7、8cm下、重い荷物を持ち上げるときにうっと力を入れるところです。そこを意識し、うっと力を入れながらゆっくり吐いていきます。このときお腹をへこませようとしません。
見た目は前者とあまり変わらないです。ただ意識の仕方が違います。
その結果、前者では胸が温かくなり、後者では丹田が温かくなります。
完全呼吸の1セット目は前者で、2セット目を後者で行ってみると、おもしろいですよ。
なお、室温は適温に温めるか、靴下等を着用して、気になるほど寒いということがないようにしましょう。
がんサバイバーやそのご家族でヨガのご体験がありましたら、ぜひ体験記などをお寄せください。kokokara@center.email.ne.jp
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