肝っ玉弁護士がんのトラブル解決します 23
お世話になった隣人にお礼をしたいが、子供たちにそのことでもめてほしくない
多彩な弁護士活動の中でも家族、相続などの問題を得意とする。2003年より「女性と仕事の未来館」館長。2児の母。2005年男女共同参画社会作り功労者内閣総理大臣表彰を受賞。『子宮癌のおかげです』(工作舎)など著書多数。
渥美雅子法律事務所 TEL:043-224-2624
乳がんの治療中です。夫はすでに他界し、2人の息子は遠方に住んでいますが、近所に住むAさんがよく世話をしてくれ、助かっています。これまでのお礼と今後のことも考えて、Aさんにまとまったお礼金を差し上げたいのですが、息子たちにはそのことを言いたくありません。私の死後、そのことでもめてほしくないのですが、よい方法はありませんか。
(70代、女性)
財産を最低半分は残しておくなどもめない方法はいくつかある
基本的には心配ご無用です。あなたが生きている間、あなたのお金はあなただけのもの、それをあなたがどう遣おうと自由です。誰かにあげてもいいし、遊んで遣ってしまってもいいし、死亡したとき、1銭も残ってなくても誰も文句は言えません。
ただ、1つだけ頭に留めておいていただきたいことがあります。それは息子さんたちに「遺留分」という権利があることです。
「遺留分」とは、親が財産を持っている場合、子どもが「親が死んだら当然その財産は自分のところに来るはず」と期待する権利、また期待していたのにアテがはずれてしまったときに、遺産の一部を取り戻す権利です。取り戻しのできる範囲は本来の法定相続分の2分の1。あなたの場合は息子さんが2人なので、さらにその2分の1ずつ、つまり1人ひとりは4分の1となります(子どもが死んで親が相続する場合もありますが、ここではその説明は省略)。
ただし、取り戻すにあたっては次の要件を満たさなければなりません。
①財産が無くなった(あるいは減った)原因が、贈与か遺贈(遺言で贈与すること)であること。
②贈与なら死亡時点からさかのぼって1年以内にしたものであること。
③死亡時点(正確には相続人が相続の開始を知ったとき)から1年以内に、贈与または遺贈した相手に対して返還請求手続をする(遺留分減殺請求といいます)こと。
ですから、息子さんたちに文句を言わせないようにするためには、その逆をいくことです。
たとえば、
①財産を全部あげるのではなく半分(遺留分減殺請求の対象となる部分)は残しておく。
②あげてから1年以上頑張って生きている。
③贈与ではなく介護費用としてお金を渡す。できればそういう契約書(合意書でも念書でもいい)を作っておく。ただし、これは不当に高額だと、後で贈与とみなされることもある。
④遺言書を書いておく。それにはなぜAさんとそういう契約をしたのか、そのいきさつとあなたのお気持ちを率直に書いておくといいでしょう。
息子さんたちがそれを理解してくれれば、決してAさんに対して悪感情を持つことはないはずです。
それはそれとして――。なぜ今の段階でそのことを息子さんたちに話したくないのですか。死後もめない方法というのは、実は生前中によく話をして、納得して もらっておくことです。父や母の生前中の言動と違うことが遺言書などに書かれていると、相続人は腑に落ちなくて争いが生じるということがよくあります。それ故、できれば今のうちに話しておくことをお勧めします。