肝っ玉弁護士がんのトラブル解決します 26

がんで退職。職場が多忙でも、残りの有給を取れるか

解決人 渥美雅子(あつみ まさこ) 弁護士
イラスト●小田切ヒサヒト
(2011年12月)

多彩な弁護士活動の中でも家族、相続などの問題を得意とする。2003年より「女性と仕事の未来館」館長。2児の母。2005年男女共同参画社会作り功労者内閣総理大臣表彰を受賞。『子宮癌のおかげです』(工作舎)など著書多数。
渥美雅子法律事務所 TEL:043-224-2624


乳がんが再発し、会社を退職して治療に専念することにしました。有給休暇が7日ほど残っており、それを治療に充てたいと考え、上司に伝えました。ところが、「職場が今、忙しいのはわかっているだろう。まわりに迷惑をかけないためにも退職日まで目いっぱい働いたらどうだ」と言われました。このような状況で、有給休暇を取ることはできないのでしょうか。

(40代、女性)

退職前に残った有給は自由に取れる

有給休暇については、労働基準法に「6カ月間継続して勤務し、その8割以上出勤した労働者に対しては10日間の年次有給休暇を与えなければならない」という規定があります。さらに長期勤続の労働者に対しては、6カ月目から計算して1年増す毎にプラス1日の有給休暇を与えなければならない(ただし、最長で1年に20日間)とも定められています。

労働者の権利の行使については、使用者側はこれを拒否できません。ただし、「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」と、いわゆる「時季指定権(時季変更権ともいう)」を行使できることになっています。

では、どういう場合に時季指定権が認められるかといえば、たとえば、公益的な事業をしている場合に1人休むことによって事故が発生する恐れがあるとか、1人が長期休暇を取ると他の労働者の休暇とバッティングしてしまうので半分を認め、残りの半分を別の日にするとか、集中訓練が予定されている期間に休むと、知識・技能の習得が不十分となって訓練の目的が達成できないとか、判例を見るとそんな場合に限っています。

逆に「使用者が代替要員の確保努力や勤務割の変更など使用者としてなすべき通常の配慮を行わず、また恒常的な要員不足により常時代替要員の確保が困難である状態でなされた時季変更権の行使は違法である」と明言した判例もあります(平成8年4月18日金沢地裁判決)。

あなたの場合はこれに近いケースといってよいでしょう。また、時季指定権は、あくまで「他の時季に年休を与える可能性があること」が前提ですから、労働者 が退職時に未消化年休を一括請求するときには、使用者側は時季指定権を行使できないとも考えられています。あなたの場合、上司がなんと言おうと堂々と有給 休暇を請求してかまいませんし、上司がわからず屋なら社長に直訴し、それでトラブルになるようであれば、お近くの労働基準監督署に相談してみてください。 監督署では会社側に対して適切な指導・勧告をしてくれるでしょう。

好ましいことではありませんが、未消化の有給休暇を買い上げる会社もあります。労働基準法の運用でも、未消化となった年休日数に応じて手当を支給すること は違法ではない、とされています。ちなみに、先に引用した金沢地裁判決では、7日分の有給休暇喪失に対する慰謝料として会社側に25万円支払うよう命じて います。体の具合の悪いとき、会社側とこうした折衝をすることは大変だと思いますが、どうかもうひと頑張りしてください。