がんと食事4
胃・食道がんの食事 量は無理なく、回数で補って。よく噛みゆっくり食事を楽しむ
「食事量と回数に気をつけ、よく噛んで食事をしましょう」と話す須永将広さん
胃・食道がんの手術後は、食べ物が入るスペースが小さくなり、消化能力も低下している。手術後の体の状況をよく理解し、ダンピング症候群や逆流性食道炎、嚥下障害を起こさないよう、食事の量や回数をに注意し食事をしよう。
胃がん手術後の食事
手術方法で異なる後遺症状
胃(図1)の切除範囲が大きいほど、術後の後遺症状もひどくなると思われがちだが、国立がん研究センター中央病院栄養管理室の須永将広さんは、切除量とは必ずしも比例しないと話す。
「全摘を不安に思われる患者さんは多く、少しでも胃を残したいと希望される方がいます。しかし後遺症状は、必ずしも残された胃の量だけで決まるものではありません」
胃の手術方法は次の4つに大きく分けることができる(図2)。後遺症は手術後の胃の残存機能に深く関係する。
●幽門輪温存胃切除
がんが胃の中央部近辺にあるとき、幽門輪を残し、中央部を中心に一般的に胃の3分の2を切除する。幽門輪と噴門輪が残るので、後遺症状の程度は比較的小さい。
胃がんの代表的な後遺症状に、めまいや脱力感、動悸などの症状があらわれる早期ダンピング症候群があるが、これは小腸に食べ物が急速に移動することが原因だ。
しかし、幽門輪が温存されているため、早期ダンピング症候群は比較的起こりにくい。さらに、胆汁の逆流も起こりにくい。
一方で、幽門輪が温存されてはいるものの胃の神経が切断されることにより胃からの排出機能が低下している場合があり、食後に胃もたれのような症状が起こりやすい。
「レントゲンを撮ってみると、胃から食べ物が排出されにくくなっていて、胃が拡張してることがわかります。それが原因でスムーズに食事ができないという患者さんもいらっしゃいます。ただし、これは時間がたてば回復してきます」と須永さんは説明する。
●胃全摘と幽門側胃切除
胃を全摘した場合は小腸(空腸)を引き上げて食道と吻合し、膵液などが流れるよう十二指腸と小腸をつなぐ。
幽門側胃切除は、幽門を含めて十二指腸の一部を切除し、3分の1程残した噴門側の胃を空腸とつなぎ、さらに十二指腸を空腸につなげる。
これらの手術では、胃の容積が小さく(またはなくなる)ため、胃液の分泌も少なくなる(またはなくなる)ので、消化機能が低下する。また、どちらの手術も幽門輪を切除するために、食べ物が食道から小腸に流入しやすく、ダンピング症候群が起こりやすい。
●噴門側胃切除
噴門を含めて胃の3分の1程度を切除する。噴門輪を含めて切除するため、胃の内容物が逆流しやすく、胸焼けや胸痛などの逆流性食道炎の症状が出やすい。一方、幽門は温存されるので、ダンピング症状は起こりにくい。
退院後の食事
須永さんによると、退院から約1カ月ほど経過した時期の外来で、「お腹が減らない」「食べ物がお腹に入っていかない」と悩みを抱える患者さんは多いという。また、後遺症状を気にするあまり、過度に消化の良い食事にこだわることで、逆に「食事がつらい」「食欲が湧かない」と訴える患者さんもいるという。
「術後の経過が順調であると医師の診察を受けた患者さんであれば、よく噛むことで、嚥下するときにはミキサーをかけた状態になることから、過度に食事内容を制限する必要はなくなります。段階的に普通の食事に戻していってよいでしょう」
ただし、表3にあるような食品は、胃もたれや停滞の原因となるので食べ方や組み合わせには気をつけよう。
退院後も1回の食事量を減らし、1日に5~6回に食事を分けて食べる分食(分割食)を基本とする。朝・昼・夕の3食に加え間食もうまく取り入れるようにする。ただし、間食がいわゆる菓子類が中心とならないように、栄養バランスに注意すると良いだろう。
ダンピング症候群に注意
ダンピング症候群は食事中・食直後に起こる早期ダンピング症候群と食後2~3時間たって起こる後期ダンピング症候群がある。
早期ダンピング症候群は、小腸に急速に食べ物が流入することがその原因であることから、楽な姿勢で安静にしていると症状は治まる。予防には、1回の食事量を少なめにし、ゆっくり時間をかけて食べることにつきる。幽門が担っていた十二指腸へゆっくりと排出する機能に代わって、食べ方で調節するように食事を摂ることがポイントだ。
後期ダンピング症候群は、血糖の低下が原因であり、退院後、次のようなケースに注意が必要だと須永さんはいう。
「何らかの理由で、間食をとることができないときに、血糖が低下してダンピング症状が起こることがあります」
後期ダンピング症候群を起こさないように、アメなどの糖分を持っておき、食事がとりにくい状況のときに補うようにする。また起こったときは糖分をとって安静にしていると回復する。