遺族年金について知っておきましょう
その2 年金加入履歴を調べてみよう
保険料の免除か滞納かで大きく左右される
前回、遺族年金を受給するための条件のひとつに「保険料納付要件」という考え方があるということについてお話しました。「保険料納付要件」とは、一言で説明すると「きちんと保険料を納めた人でないと遺族年金はあげませんよ」ということです。「死亡月の前々月までに、保険料を納めるべき期間のうち保険料納付済み期間と保険料免除期間の合計が3分の2以上であること」または特例として「死亡月の前々月前1年間に滞納がないこと」が条件です。
経済的な理由で国民年金の保険料を納めることができないときは、必ず保険料免除申請をするべきです。黙って保険料を払わないのは「滞納」ですが、申請を認められて保険料を払わないのは「免除」されているのであって滞納扱いとはなりません。「保険料を払わない」という同じ事実も場合によっては、年金を受けられるか受けられないか、明暗を大きく分ける要因となることがあるのです。
ところで、この申請免除ですが、申請すれば誰でも認められるというものではない点に注意する必要があります。経済的に国民年金の保険料を支払うことができない状態にあるということを役所が認めてくれなければなりません。生活保護を受けているような場合はともかく、失業してこれからの収入が見込めないときの免除は、場合によっては認められることが難しいケースがあります。
事例-1 国民年金の免除申請をしたのに認められなかった場合
A男さん(35歳)が死亡。遺族は妻(31歳)と長男(5歳)長女(2歳)。
A男さんは、従業員15名の運送会社に勤務していた。A男さんが体調の不良を自覚したのは半年ほど前のことだが、病院で検査をしても特に異常が見つからなかった。結局、朝早くから遅い時間まで拘束される激務のせいだろうと解釈し、妻とも相談してもう少し体が楽な仕事に転職をすることにした。まだ若いしすぐに次の仕事も見つかるだろうと安易に考えていたが、退職後も体調は改善されず、なかなか思ったような転職先も見つからない。そうこうしているうちに、命にかかわる重大な病気が発見されたのだった。
A男さんは、国民年金の保険料を免除してもらえる制度があることを知り、市役所を訪れた。ところが、A男さんの免除申請は認めてもらえなかったのだ。
A男さんは免除をあきらめた。
「とても保険料は払えないけれど、滞納者が4割もいるそうだし、まぁしょうがないか……」 A男さんはその1年後に亡くなった。死亡月の前々月前1年間は保険料を滞納していたうえに、20歳から死亡月の前々月までの年金加入履歴を調べたところ保険料未納期間が3分の1以上あり、結局遺族年金を受給することはできなかった。
考えるべきこと
役所で把握しているA男さんの収入は、前年度のものです。そのころは激務をこなしていただけあってそこそこの給与収入があったことがわかります。この前年度の収入が一定基準以下だと免除申請が通るのですが、失業した直後などは前年度の収入は在職中のものであることが多く、免除申請が認められる基準以下になっていることはあまりありません。このときに提出を求められるのが「失業状態を証明する公的な証明書」です。公的な証明書、これは雇用保険の離職の証明書、または*住民税特別徴収から普通徴収への変更納税通知書を指します。
A男さんのもとの勤務先である運送会社は、「社会保険」にも「雇用保険」にも入っていませんでしたし、住民税も給与天引きではありませんでした。雇用保険とは、失業者に対して給付を行う公的保険制度です。本来は労働者を雇っている会社は雇用保険に加入する義務があるのですが、実際には中小零細企業には「社会保険」や「雇用保険」に加入していないところが少なくありません。「雇用保険」に入っていないのですから、役所のいう「雇用保険」上の離職した証明書をだせるはずもありません。また、そういった会社ほど特別徴収もしていないことが多いようです。本人(労働者)の責任ではないのですから、そんなときの救済措置がきちんと用意されているべきなのですが。
ところで、このように扶養する家族がいるA男さんは、なんとしてでも保険料を納めて滞納は避けるべきでした。亡くなる前日まででしたら保険料は2年間まで遡って納めることができます。不謹慎といわれるかもしれませんが、まだ老齢年金をもらい始めていない方で(老齢年金をもらっている人は「保険料納付要件」を問われません)心あたりのある方は社会保険労務士などの専門家に相談されるとよいのではないでしょうか。
*住民税特別徴収=給与の支払者が、給与の支払を受ける人(納税義務者)から毎月給与を支払う際に、住民税を天引きして納入する制度。1年の住民税は6月から徴収が始まり、次の年の5月まで12回、会社から支払われる給与から毎月徴収される
全額免除 | 4分の3免除 | 半額免除 | 4分の1免除 | 学生納付 特例 | 未納 | |
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老齢基礎年金を受ける ための資格期間には | ○ (入る) | ○ (入る) | ○ (入る) | ○ (入る) | ○ (入る) | × (入らない) |
受け取る 老齢基礎年金額には | 免除期間は3分の1が年金額として反映される | 免除期間は2分の1が年金額として反映される | 免除期間は3分の2が年金額として反映される | 免除期間は6分の5が年金額として反映される | 年金額には反映しない | 年金額には反映しない |
障害年金、遺族年金を 受けるときは | 保険料を納めたものとして扱われる | 保険料を納めたものとして扱われる | 保険料を納めたものとして扱われる | 保険料を納めたものとして扱われる | 保険料を納めたものとして扱われる | 滞納扱い |
追納できる期間(納められるようになったときさかのぼって納める) | 10年以内 | 10年以内 | 10年以内 | 10年以内 | 10年以内 | 2年以内 |
夫か妻のいずれかのみに所得(収入)のある世帯の場合
単身世帯 | 2人世帯 | 4人世帯 | |
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4分の1免除 | 158万円(252万円) | 196万円(306万円) | 297万円(439万円) |
半額免除 | 118万円(195万円) | 156万円(249万円) | 257万円(389万円) |
4分の3免除 | 78万円(143万円) | 116万円(192万円) | 217万円(336万円) |
全額免除 | 57万円(122万円) | 92万円(157万円) | 162万円(258万円) |
2人世帯は夫婦世帯、4人世帯は夫婦と子供2人(全額免除を除いてそのうち1人は特定扶養親族)の世帯です。