仕事をしながら療養する 大腸がんの手術後に化学療法。高額な治療費だが県民共済がん特約が功を奏した

取材・文:菊池憲一 社会保険労務士
(2005年6月)


弁当屋を経営する山下壽美さん


04年8月8日の夜11時頃、山下壽美さん(現在、59歳)は、右の腹部に痛みを感じた。最初は「食あたりかな」と思った。しかし、下血もあったため、「危ない」と感じて、車で近くの公立のA病院に駆け込んだ。応急措置後の深夜3時頃、担当医の判断で、別の公立のB総合病院へ救急車で搬送された。そのまま点滴治療による入院生活を余儀なくされ、入院30日後、「大腸がんの中の盲腸がんで肺と肝臓に転移がある」と告げられた。同年9月7日、食べられることを治療目的に、約5時間の開腹手術で腸を20センチほど切除した。術後2週間目の9月21日、1カ月半の入院生活を終えてやっと退院できた。

入院直前まで、山下さんは、朝8時半から夜の10時頃まで、弁当屋で毎日12時間以上も働き続けていた。昼休みの2時間は近くの自宅に戻って昼食をとり、家事もこなした。お弁当の新メニューから仕入れ、販売、経理まで、あらゆることをこなして、切り盛りしてきた。それでも、かつてほど繁盛はしなかった。

山下さんは、20年ほど前、大手企業を退職した夫(現在、62歳)と一緒に全国チェーンの弁当屋を始めた。一時は繁盛して3店舗に拡大し、ほかの事業も始めた。

しかし、不況と歩調を合わせて売り上げが落ち、3年前、全国チェーンの弁当屋を脱退し、個人経営の弁当屋に切り替えた。「人件費を少しでも減らすために、できることは何でもしました。仕事がきつい。もう年齢的にも限界かな」と思い始めた途端に、腹痛に見舞われ、緊急入院となった。

万一に備えたがん保険が功を奏す

山下さんは、3年ほど前から県民共済(生命型)に加入していたが、1年前にがん特約をつけたもの(月々の掛け金約3,000円)に変更した。50歳代後半でがんになった親戚の人から医療費などで苦労した話を聞いたのがきっかけだった。寝込むほどではないが、それほど体力に自信はなかったため、万一に備えてがん特約をつけた。入院中、県民共済から資料を取り寄せて、支払いの請求を行った。保障の対象となり、退院後しばらくして、県民共済から120万円ほどの支払いがあった。「自営業者は働けなくなった途端に収入がなくなります。それだけに、県民共済からの120万円は助かりました」と山下さんは言う。

1カ月半の入院費は総額50万円ほどかかったが、健康保険法の高額療養費(窓口で支払う一部負担金が一定額を超えた場合にその超えた分を保険給付として支給される)制度を利用したため、医療費の自己負担はそれほど多くなかった。

経営難と高額な治療代のダブルパンチ

退院後、受診したC大学病院で「肺と肝臓の腫瘍の切除手術」を勧められたが、転移が多いため、同大学病院外来で全身化学療法を受けることにした。「お店のことも気になり、少しでも早く、少しずつでもいいから仕事をしたかったのです」と山下さん。04年10月から経口抗がん剤のTS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)を1週間服用して1日入院(点滴治療)、その後2週間服用して2週間休みという治療(1クール)を4回繰り返した。山下さんは、抗がん剤治療による副作用が心配だった。そこで、親戚のがん体験者の勧めで、4種類の健康食品を購入して、免疫力を高めて副作用を軽くしようとした。

病院の窓口で支払った自己負担額は、抗がん剤治療費(3週間)が約3万円、1日入院の治療費は約4万円、それに健康食品の費用が毎月9万円ほどかかった。健康食品の費用は高額療養費の対象にはならない。そのため、抗がん剤治療費と健康食品の費用で毎月16万円以上が必要だった。

しかも、弁当屋は経営ピンチに陥った。山下さんが入院した8月から9月、10月、11月は売り上げが3分の2、2分の1と減少した。逆に、人件費は倍近くに増加して、経営が苦しくなり、ダブルパンチに見舞われた。しかし、山下さんは自分の身体と相談し、入院直前までの無理をし続けたハードな日々を振り返りながら、冷静に対応した。「治療を最優先に」と考えて、外来に通院して抗がん剤治療を継続し、健康食品も飲み続けた。

「大きな副作用もなく、抗がん剤治療を受け続けることができました」(山下さん)

抗がん剤治療と弁当屋を続けていくために、山下さんは夫と何度も相談して、お店も自宅も売却して店舗付き住宅への引越し・転居を考えた。経済的・身体的な負担が軽くなると思ったからだ。顔なじみの不動産屋に依頼して、チラシの手配までした。しかし、04年11月、息子が東京の会社を退職し、お店を手伝うようになった。また、夫の年金(19年間の会社勤務中は厚生年金、自営業を始めてから国民年金に加入)が支給されるようになった。さらに不足した分は、県民共済の保険金をつぎ込んで何とか経営を維持した。

山下さんは、今年2月頃から週2~3日、1日2~3時間ほどのペースで働き始めた。パートのスタッフに指示を出したり、新しいメニューを考えたり、仕入先の開拓などに取り組んだ。「幸い、2月は新しいランチ弁当が好評で売り上げが伸びました。安価で新鮮な素材を提供してくれる仕入先との出会いもあり、3月も4月も好調です」と山下さんは笑顔を見せる。昨年11月からはテレビで紹介された『市民のためのがん治療の会』に参加して、多くの医療情報を得ることができた。そして、今年4月からワクチンによる免疫療法も始めた。

「今は自営業をやっていてよかったと思っています。自分のペースで仕事ができるのですから……。積極的に外に出て、多くの出会いと情報を得て、仕事も治療もベストな選択を探し続けたいと思います」(山下さん)

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県民共済
全国生活協同組合連合会(全国生協連)が行っている保障制度です。全国47都道府県で県民共済・都民共済・府民共済・道民共済・全国共済(神奈川県のみ)と呼ばれて、生命共済などを実施しています。「がん特約」の保障制度もあります。

市民のためのがん治療の会

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