仕事をしながら療養する
会社の理解で半日の年次有給休暇を申請 外来通院日を半日出勤で乗り切る

取材・文:菊池憲一 社会保険労務士
(2005年1月)


前立腺がんの治療を年次有給休暇制
度を利用して乗り切った上總中童さん


上總中童さん(68歳)は約40年間、加速装置システム技術者として放射線機器の開発・販売・メンテナンスに携わってきた。現在もIMRT(強度変調放射線治療)機器の世界トップメーカーとして知られる(株)VarianMEメディカルシステムズ(本社・米国カリフォルニア。勤務地・東京都中央区日本橋)の技師長として、販売の最前線で働いている。

前立腺がんと診断されIMRT治療を選択

4年前、会社の定期健診で前立腺がんの腫瘍マーカーのPSA(前立腺特異抗原)がやや高いと指摘された。その後、年々上昇したため、近所の泌尿器科クリニックで精密検査を受けた。02年12月24日、「前立腺組織を調べた結果、がん細胞が発見された」と告げられた。早期がんのT1c(針生検で確認される腫瘍)と診断され、手術を勧められた。

しかし、前立腺がんは進行の遅いがんであるため、上總さんはホルモン療法を受けながら治療法を考えることにした。同社のトップに相談すると、IMRTとシード永久刺入法の2つの放射線治療を推奨してくれた。上總さんは40年間の知識と医師人脈を駆使して、治療法を検討した。

色々データを分析した結果、京都大学病院放射線科でIMRTを受けることにした。当時、IMRTのできる病院は全国で数カ所に過ぎず、同大学病院には米国のがん専門病院でIMRTの治療経験を持つ放射線専門医がいた。その点が決め手となった。

「私はIMRT機器メーカーの技術者として、全国各地の病院でIMRTの有効性を説明し、販売してきました。当然の結論でした」と上總さん。

しかし、治療のために、東京から京都まで通院しなければならなかった。しかも当時、上總さんはある会社との事業提携を推進するプロジェクトのスタッフとして重要な役割を担っていた。その業務提携もほぼ固まり、上總さんは、治療に集中することにした。会社の幹部はもちろん、プロジェクトチームのスタッフに病気と治療内容をすべて公開して、協力を願い出た。

がん告知から4カ月後の03年4月30日からIMRTによる治療が始まった。上總さんの1週間のスケジュールは以下のようだった。月曜日=午前中、会社に出勤。午前中は通常の業務をこなし、昼頃、新幹線で京都に行く。午後4~5時頃、京大病院放射線科外来でIMRTを受ける。治療に要する時間は準備から終了まで全部で20~30分。照射時間は15分ほど。治療後はホテル(大学病院と提携。1泊7000円)で過ごす。火~木曜日=午前9~10時頃まで、外来で治療を受ける。その後は宿泊中のホテルに戻り、パソコンと電話・FAXを駆使して、会社の仕事を行う。金曜日=午前9~10時頃、外来で治療を受ける。治療後、すぐに新幹線で東京に戻り、午後1時から夕方まで、東京・日本橋の会社で通常の業務を行う。そして、土・日曜日は自宅でゆっくりと過ごした。

03年6月下旬までの1カ月半、上總さんは外来通院を続けた。会社は、東京~京都間の新幹線の往復乗車券、京都でのホテルの宿泊料をすべて出張費として負担してくれた。事実、上總さんは京都のホテルから大阪や滋賀県などに出かけて、通常の業務をこなした。

「外来での治療中、プロジェクトチームのミーティングには出席できませんでした。しかし、京都のホテルを拠点に、パソコンで連絡を取り合って、実務面でチームをサポートすることはできました」と上總さん。

治療期間の休業分を年次有給休暇で

IMRTの治療費は保険適用で、窓口で支払った自己負担額は60万円ほどだった。後日、高額療養費を請求し、自己負担額はかなり少なくてすんだ。また、合計38日間の外来通院日はすべて半日出勤・半日休暇扱いになった。上總さんは年次有給休暇40日分の権利があった。そこで、19日分の年次有給休暇を外来通院日に当てた。そのため、治療期間中、収入が減ることはなかった。38日間の外来通院後、3カ月に1回ペースで定期検査を受けている。

治療後の経過は順調で、PSAを正常値に抑え込んでいる。放射線による障害もない。

「私の場合、会社のトップと幹部の理解によって、遠方での外来治療を出張扱いにしてもらい、仕事への支障もなく、がん治療をうまく乗り切ることができました。こうした待遇は会社でも初めての特別な扱いで、又自分の知識と周囲の恵まれた環境が無ければ出来ませんでした。非常にラッキーだったと思っています」と上總さん。

がん治療の進歩は著しい。上總さんのように、働きながら外来通院だけでがんを治せる時代を迎えつつあるのだ。

キーワード

半日の年次有給休暇
年次有給休暇は原則として、1日を単位とするものです。ですから会社(使用者)は労働者に半日単位で付与する義務はありません。ただし、労働者が半日単位での年次有給休暇を希望し、会社が同意した場合には取得も可能です。

市民のためのがん治療の会

代表・會田昭一郎
IMRTを含む放射線治療などの相談に応じている。
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