仕事をしながら療養する
非常勤職員で長期の入院治療 組合のバックアップで職場復帰を果たした

取材・文:菊池憲一 社会保険労務士
発行:2004年9月
更新:2013年4月

  

千葉市の公民館図書室に非常勤公務
員として働く土屋春江さん。職場復帰
できたのは、組合の働きによるものが
大きいという

非常勤公務員として雇用保険に加入

土屋春江さん(59歳)は16年間、千葉市の公民館図書室に非常勤公務員として勤務してきた。

公民館図書室は03年5月から休館日を年末年始だけに変更し、祝日・月曜日も開館することになった。4人の非常勤職員がローテーションを組んで、1日2人で午前10時から午後5時まで勤務。非常勤職員の労働時間は1日6時間、週3.5日となり、03年5月からは雇用保険に加入(短時間労働被保険者となる)。

健康保険・厚生年金は適用とならない。そのため、健康保険は会社経営の夫の被扶養者となり、医療費は3割負担。年金は、主として夫の収入により生計を維持するもの(被扶養配偶者で第3号被保険者)となり、保険料の支払いはなし。

収入は時給830円で月額7万円ほどと多くはないが、土屋さんは公民館図書室の仕事にやりがいを感じていた。

また、9年前、土屋さんは図書館・図書室の非常勤職員による労働組合(全統一千葉市非常勤職員組合)の結成当初に参加。市の常勤職員との均等待遇と労働条件の改善を求める活動に取り組んできただけに職場への愛着も深かった。

仲間にも恵まれ、職場での人間関係も良好だった。健康にも自信があり、65歳の定年まで働くつもりでいた。

卵巣腫瘍を発症し入院

ところが、03年8月頃、頻尿になり、近くのクリニックでエコー検査をした結果、「子宮筋腫かもしれない」と言われた。

さらに9月初めに総合病院産婦人科で検査を受けたところ、「卵巣腫瘍」と診断され、病院からは「すぐに手術が必要です。入院期間は04年1月末まで」と言われた。

土屋さんはあまりに長い入院期間に驚いたが、退院後は職場復帰をしたいと思った。そこで、公民館図書室の同僚と千葉市非常勤職員組合の三好和子委員長に相談を持ちかけた。

同僚は館長の理解を得たあと、臨時職員を探し、土屋さんの職場復帰までの体制を準備した。

組合は公民館図書室を管理する生涯学習振興課に土屋さんの職場復帰について確認し、バックアップした。5カ月間の期間限定で雇用された臨時職員の協力を得て、土屋さんは、安心して入院生活を送ることができた。

138日間に及ぶ長期の入院から職場復帰を果たす

03年10月7日に入院。2週間おきに1回、合計3回の抗がん剤治療で腫瘍を縮小させてから03年12月12日に手術を受けた。病理検査で卵巣がんとわかった。

術後の03年12月26日、04年1月21日、04年2月12日に抗がん剤治療を受けて、04年2月21日に退院。入院期間は138日間にも及んだ。

土屋さんは、入院時に15日間の年次有給休暇を取得していたため、その15日間を最初に使い切った。健康保険の被扶養者のため、傷病手当金は支給されず、所得保障は得られなかった。医療費は、抗がん剤治療を2回受けた月は約28万円、1回受けた月は約20万円と月ごとに変わった。いったんは支払わなければいけないが、健康保険の高額療養費を請求したのでかなり戻ってきた。

また、2年前にがん保険に加入し、毎月1万数千円の保険料を支払ってきたため、民間保険会社から1日1万円、120日限度の入院費用120万円と手術費30万円が支給された。

土屋さんのように傷病手当金が支給されない被扶養者にとって、民間保険会社からの入院・手術費用150万円は経済的負担を軽くしてくれた。

「入院期間中の医療費などの経済的なことや家事など、家庭のことは主人と娘がすべて行ってくれました。退院後の職場復帰は職場の同僚と組合が取り組んでくれました。自分の仕事は病気と向き合って、元気になることだと思いました。周囲のサポートを得て、何とか長期間の入院生活を乗り越えることができました」と土屋さん。

退院後、土屋さんは04年4月1日から職場復帰。入院前よりも生き生きと、公民館図書室で働いている。

三好委員長によると、図書館・図書室の非常勤職員で138日間の長期の入院生活後に職場復帰を実現できたのは初めて。過去には出産後2カ月間の休養後の職場復帰のケースがあるだけだという。

「9年前の組合結成以前でしたら病気で入院したらその時点で職場を離れなければなりませんでした。職場復帰は不可能でした。非常勤職員のような弱い立場の人間には職場の同僚や組合のサポートがとくに大切です」と三好委員長は言う。

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パートタイマー(非常勤など短時間労働者)の労働保険・社会保険
労災保険は雇用形態に関係なく、パートタイマーにも適用されます。

雇用保険は1)1週間の所定労働時間が20時間以上であること。2)1年以上継続して雇用されることが見込まれることの二つの要件を満たせば適用され、年次有給休暇などが取得できます。

健康保険・厚生年金は「1週間の所定労働時間及び1カ月の所定労働日数が、同じ事業所で同種の業務に従事する通常の労働者の所定労働時間・日数のおおむね4分の3以上」であれば保険の対象となります。

加入できない場合は、サラリーマンの夫などの健康保険・厚生年金の被扶養者となります。ただし、原則として年収が130万円以上(60歳以上又は障害者の場合は180万円以上)あれば被扶養者とは認定されません。自分で国民健康保険や国民年金に加入する必要があります。


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