がん看護専門看護師 山田みつぎの

副作用はこうして乗り切ろう!「抗がん薬治療中のしびれ」

監修●山田みつぎ 千葉県がんセンター看護局通院化学療法室看護師長
構成●菊池亜希子
(2015年7月)

やまだ みつぎ 千葉県がんセンター看護局通院化学療法室看護師長。2006年日本看護協会がん化学療法看護認定看護師認定。11年聖隷クリストファー大学大学院博士前期課程修了(看護学修士)。同年、がん看護専門看護師認定。13年より現職。日本がん看護学会、日本臨床腫瘍学会、日本看護研究学会所属

抗がん薬治療をやめたくないから、医師にしびれがつらいと言えない……そんな葛藤を抱えていませんか? 特効薬はなくとも、方法はあります。まずは伝えてください。大切なのは、自分らしい毎日を生きることです。

「しびれ」の急浮上

抗がん薬の副作用というと、脱毛や感染、吐き気といった症状を思い浮かべますが、実は、ここ10年ほどで急激に「しびれ」が注目されるようになりました。言い換えると、患者さんを困らせる症状として、「しびれ」が急浮上してきたのです。

そもそも、しびれは、抗がん薬が体の中を巡る過程で末梢神経を傷つけてしまうことで起こります。それは昔も今も変わらないのに、なぜ今になって、しびれが注目されるようになったのでしょうか。

それは、医療の進歩によって、近年、治療成果の高い抗がん薬が次々に登場したことが大きいのです。成果が期待できるがゆえに、抗がん薬治療が長く続き、その蓄積が、しびれをひどくしていく。口内炎のように、できても必ず治癒する症状と違い、しびれは、治療が続くことで蓄積し、悪化し、治りにくいという特徴があるのです。

治療をやめたくないから言えない

困ったことに、しびれには特効薬がありません。しかも、しびれが出やすい抗がん薬が、実は、がんそのものにはよく効いている場合が多いのです。ですから、患者さん自身、しびれがつらいと訴えたら、治療成果の上がっている抗がん薬治療を中止されてしまうのではないか、と怖れてしまう。だから医師に言えない。我慢すれば、治療を続けられるのだから、と。

そして、しびれはさらに悪化し、ある日、転んで大けがをしたり、中には運転中にブレーキを踏み損ねて交通事故ということも。これが、しびれの盲点。脱毛や発熱の副作用と違い、患者さん本人にしかわからない。しかも、無理すれば我慢できてしまう。

しかし、しびれを我慢して従来の抗がん薬を無理に続けることで、がん治療の成果はたとえ上がっても、逆に、しびれの悪化が、QOL(生活の質)を著しく低下させてしまいます。

その人らしさ、生きる力

しびれの症状が出やすいのは手先、足先といった末端です。抗がん薬の種類によって、程度やしびれ方に違いはありますが、特徴的な症状は、ビリビリくるしびれの他に、感覚の鈍りがあります。ものに触れてもいつも手足に紙が一枚挟まっているような違和感。「グローブ&ストッキング症状」と呼ばれるその症状は、不快感とともに、強い危険性をはらんでいます。

がん治療の観点や、吐き気や感染症などの副作用からみれば、「しびれなんて、命に直結しないし、たいしたことないじゃないか!」と思われるかもしれません。残念ですが、こうしたことを軽視する医療者がいるのも事実ですが、それはとんでもない間違い。しびれは、ときに、趣味や仕事、その人らしい普段の生活や、生きる力そのものを奪いかねない重大な症状の1つなのです。ですから、決して軽視しないで。

しびれとつき合っていく覚悟

しびれが出たからといって、すぐに治療を中止することはありません。けれども、症状によっては、薬の量を調節したり、代替えとなる薬があれば試してみることはできます。しびれがひどいときに抗がん薬の量を減らしても、病状が急激に進行するわけではない、とのデータもあります。ですから、日常生活に影響が出始めたとき、もっと言うと、影響が出そうになったら、医療者に伝えてほしいのです。
従来の治療を無理に継続するより、しびれができるだけ強くならないように調節しながら、治療そのものは続けていくことを考えましょう。なぜなら、しびれとの付き合いは、往々にして長期間に及ぶからです。

しびれは、抗がん薬治療を終えてからも続きます。プラチナ化合物系抗がん薬は、終了後1年半経っても、残る場合があります。つまり、非常にゆっくり回復するので、患者さん自身が回復感を持ちづらい。治った!と思える瞬間が来ないのです。けれども、薄紙をはぐように、確実に少しずつ回復しています。ですから、長くつき合っていくことを覚悟して、しびれを軽微な状態で保つよう、医師をはじめ私たち医療者と一緒に工夫していく、というふうに頭を切り替えてほしいと思います。