手足を冷やすことで抗がん剤の影響を減らし障害を軽減する
抗がん剤の副作用、爪・皮膚障害はフローズングローブで予防!
抗がん剤による爪障害の予防策
としてフローズングローブの
使用を勧めている
中山貴寛さん
乳がんの抗がん剤治療では、爪障害が現れることが多い。
ひどい場合は爪がはがれてしまうなど、大きな痛みを伴うことも多い。そういった状況を改善するのに、大きな期待が寄せられているのが凍結手袋、いわゆるフローズングローブだ。改良型も間もなく登場するという。
爪がはがれてしまうことも
タキソテール(*)は、日本では乳がんをはじめ、非小細胞肺がんや胃がん、卵巣がんなど適応範囲の広い抗がん剤だ。そのタキソテールで副作用の1つとしてやっかいなのが爪障害である(症例1)。
爪障害をおこしやすい抗がん剤としてタキソテールのほか、ファルモルビシン(*)やアドリアシン(*)などが知られているが、「タキソテールは深刻です」と、大阪府立成人病センター乳腺・内分泌外科副部長の中山貴寛さんは指摘する(図2)。
「ファルモルビシンなどアンスラサイクリン系の薬剤では爪が黒く変色するのが特徴で、生活が困難になるほどの爪障害はあまり見られません。しかし、タキソテールはひどい場合は爪がはがれてしまうほどで、大きな苦痛を伴うことも多いのです」
- ドセタキセル
- パクリタキセル
- エピルビシン
- ドキソルビシン
- シクロホスファミド
- フルオロウラシル
- ブレオマイシン
乳がんの術前・術後の化学療法や再発後の治療においてタキソテールは中心的な薬であり、アンスラサイクリン系の薬を組み合わせて使うことも多いため、爪障害が頻発するという。
中山さんも所属するKMBOG(*)という乳がんの研究グループが行った多施設共同臨床試験では、タキソテールの投与を受けた患者さんへのアンケート調査から、爪・皮膚障害は手で約90%、足で65%と高い確率で発生していることが明らかになった。
「爪に線が入ったり黒ずむ程度の人もいれば、爪が脆くなって割れたり、感染を起こして剥離にまで進行する人もいます。爪の変化が出てきてしまうと、簡単には治らないので、『症状が出てから治療する』というのではなく、あらかじめ予防をしておくべきでしょう」と中山さんは話す。
*タキソテール=一般名ドセタキセル
*ファルモルビシン=一般名エピルビシン
*アドリアシン=一般名ドキソルビシン
*KMBOG=Kinki Multidisciplinary Breast Oncology Group。現在は、KBCSG-TR:Kinki Breast Cancer Study Group-Translational Research に移行
フローズングローブが有効
では、どうすれば爪障害を予防できるのか、フランスの研究グループが興味深い臨床試験の結果を発表している。
タキソテールの点滴中に「凍結手袋(フローズングローブ)」で手を低温に保つと、手の皮膚や爪へのダメージが顕著に少なかったというのだ。
タキソテールの投与時、患者さんの片方の手に「エラストジェル™」というフローズングローブをはめ、はめた手とはめていない手で爪障害の出方を比較したところ、爪障害が起こらなかった割合をみると、グローブをはめた手で89%、素手では49%と、フローズングローブの有効性が示された(図3)。
なぜ手先を冷却すると爪障害が予防・軽減できるのか、中山さんは次のように説明する。
「抗がん剤は血流に乗ってがん細胞に届けばいいので、指には不要です。そこで手足の先の血管を冷やして収縮させ、血流を減らすことで抗がん剤の影響を抑えようというわけです。ちなみに同様の発想で、このフランスのグループは脱毛予防のフローズンキャップも開発しています」
半数以下で発症を抑えられた
これを受けて中山さんが所属するKMBOGでも臨床試験を実施。フランスのグループの報告と遜色ない結果が得られているので、紹介しよう。
対象となったのは、タキソテール単独または併用で4コース以上投与予定の乳がん患者さん。両手にフローズングローブをはめた「着用群」(70人)と、はめなかった「素手群」(52人)を比べた。
着用群は、タキソテールの点滴が始まる前15分、点滴中60分、点滴後15分の合計90分間、フランスのグループが用いたのと同じ「エラストジェル™」で両手を冷却。「足の爪の変化」「手の爪の変化」「手の皮膚障害」について写真を撮って記録し、研究グループ内で、その重症度を判定した。
素手群は過去にタキソテールの投与を受けた患者さんで、爪障害に関するカルテ記載とアンケート調査によってデータを集めた。
結果、手の爪では大きな差が見られた。素手群で無症状だったのはわずか8%で、実に92%の患者さんで症状が出ていたのに対し、着用群では41%の患者さんが無症状だったことが明らかになった。症状の程度を見ると、素手群では症状が出た患者さんの18%が中等度以上(グレード2以上)だったのに対し、着用群で中等度以上の症状が現れたのは4%にとどまった。
一方、フローズングローブをはめていない足では、爪障害を起こした割合は両群間で大きな差がなかったことから、フローズングローブの有効性が示された(図4)。
また皮膚障害の発症頻度は両者でそれほど変わらなかったが、中山さんによると個々の症例では有効な患者さんも いたという。
「手の甲にひどい湿疹が出て、その後、皮膚がぼろぼろと剥がれ落ちてしまうことを繰り返していた患者さんが、フローズングローブを試したところ、その皮膚症状が楽になったとおっしゃるケースもありました。もっと早くから使いたかったという患者さんの声もあり、患者さんのQOL(生活の質)を維持しつつ治療を継続させるために、フローズングローブの使用を積極的に考えるべきでしょう」
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