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最初が肝心。最初から嘔吐をさせないことが抗がん剤治療の秘訣
やっかいな遅発性悪心・嘔吐に期待の新星制吐剤が登場

監修:齊藤光江 順天堂大学医学部付属順天堂医院乳腺科科長
取材・文:半沢裕子
発行:2010年5月
更新:2013年4月

  

齊藤光江さん 順天堂大学医学部付属
順天堂医院乳腺科科長の
齊藤光江さん

抗がん剤治療で最もやっかいな「悪心(吐き気)・嘔吐」。なかでも大きな課題だった、遅れてやってくる(遅発性)悪心・嘔吐に効果が高い新薬2剤が日本でも承認された。MASCC(国際がん支持療法学会)の制吐療法ガイドライン作成委員の1人である順天堂大学医学部付属順天堂医院乳腺科科長の齊藤光江さんに、最新制吐剤の効果についてお話しいただいた。

支持療法=がんにともなう合併症の治療や化学療法にともなう副作用の管理:制吐療法もその1つ


吐き気といえばシスプラチンの対策から

抗がん剤治療において制吐剤が切実に求められたのは80年代、プラチナ系製剤シスプラチン(一般名)が抗がん剤として使われ始めたときからです。

シスプラチンは優れた腫瘍縮小効果から肺がんや卵巣がんなどの抗がん剤治療で使われる薬ですが、吐き気が強く(「催吐性が高い」と言います)、とくに投与直後の24時間は90パーセント以上の人が嘔吐し、その後も数日間、少し弱い悪心・嘔吐が続きます。この吐き気を抑えようと多くの薬が試されましたが、なかなか効果が上がりませんでした。

[注射抗がん剤の催吐リスク分類]

高度リスク90%以上 中等度リスク30~90% 軽度リスク10~30% 最小度リスク10%未満
シスプラチン
シクロホスファミド(>1,500mg/m2
ダカルバジン
ドキソルビシン(A)/エピルビシン(E)
+シクロホスファミド(C)
インターロイキン2
(>12-15million units/m2
ブスルファン(>4mg/kg/day)
カルボプラチン
シクロホスファミド(<1,500mg/m2
シタラビン(>200mg/m2
ダクチノマイシン
ダウノルビシン
ドキソルビシン
エピルビシン
イダルビシン
イホスファミド
インターフェロンα
(>10,000 units/m2
イリノテカン
メルファラン(>50mg/m2
メトトレキサート
(250-1,000mg/m2
オキサリプラチン(>75mg/m2
ネダプラチン
エノシタビン
ビラルビシン
アムルビシン
三酸化ヒ素
インターロイキン2
(12million units/m2≦)
シタラビン(100-200mg/m2
ドセタキセル
ドキソルビシン塩酸塩
エトポシド
フルオロウラシル
ゲムシタビン
インターフェロンα
(500-10,000 units/m2
メトトレキサート(50-250mg/m2
マイトマイシンC
ミトザントロン
パクリタキセル
ペメトレキシド
トポテカン
ペントスタチン
アクラルビシン
ラニムスチン
アスパラギナーゼ
ベバシズマブ
ブレオマイシン
ボルテゾミブ
セツキシマブ
クラドリビン
シタラビン(<100mg/m2
フルダラビン
ゲムツズマブオゾカマイシン
メトトレキサート(≦ 50mg/m2
リツキシマブ
トラスツズマブ
ネララビン
ビンブラスチン
ビンクリスチン
ビノレルビン
ビンデシン
ペプロマイシン
※薬品名は一般名出典:NCCN ver4, 2009改変

90年代になり、セロトニン受容体拮抗剤が開発されます。

吐き気が起こるメカニズムの1つに、「セロトニンという体内物質(鍵)が、受容体(鍵穴)にくっつく」というものがありますが、セロトニン受容体拮抗剤は先回りしてその鍵穴をふさぎ、セロトニンの働きをブロックする薬です。副作用が軽く、重篤な有害事象がなく、しかも急性期(24時間以内)の嘔吐の過半数を抑えることがわかりました。

[抗がん剤の悪心・嘔吐発現のメカニズム]
図:抗がん剤の悪心・嘔吐発現のメカニズム

一方でセロトニン受容体拮抗剤は24時間を過ぎてからダラダラと続く嘔吐(遅発性嘔吐)はあまり抑えられないこともわかりましたが、デキサメタゾン(一般名)などのステロイド剤に遅発性の悪心・嘔吐を抑える効果が確認されたため、セロトニン受容体拮抗剤とデキサメタゾンとの併用療法が国際的なガイドラインで推奨されました。

ただし、遅発性の悪心・嘔吐を抑えるといっても、効果が出るのは全患者さんの50パーセント未満だったため、残り50パーセントの患者さんの遅発性悪心・嘔吐を抑える薬が待たれていました。

[がん化学療法で患者が最も嫌う重篤な副作用の変遷]

順位 1983 1993 1995 1999
1位 嘔吐 悪心 悪心 悪心
2位 悪心 全身倦怠感 脱毛 脱毛
3位 脱毛 脱毛 嘔吐 全身倦怠感
4位 治療への不安 家族への影響 全身倦怠感 嘔吐
5位 治療期間の長さ 嘔吐 注射への不快感 味覚の変化
出典:Matti S Aapro, Therapeutics and Clinical Risk Management 2007:3(6) 1-12

期待の新星アプレピタントとパロノセトロンが登場

2000年代になり、期待の新薬が登場します。昨年、日本でも承認されたニューロキニン1受容体拮抗剤アプレピタント(商品名イメンドカプセル)です。吐き気を起こす別の体内物質サブスタンスPをブロックする薬ですが、遅発性悪心・嘔吐を抑えるという臨床試験の結果が出て、03年にFDA(米国食品医薬品局)で承認されました。

同時に、第2世代のセロトニン受容体拮抗剤も開発されました。今年になって日本でも承認されたパロノセトロン(商品名アロキシ)という薬で、こちらも遅発性悪心・嘔吐を抑えるという臨床試験結果が出ています。

アプレピタントは、標準的な悪心・嘔吐治療である旧世代のセロトニン受容体拮抗剤+デキサメタゾンに加えて使う臨床試験で、急性期および遅発性悪心・嘔吐治療に対する効果が証明されました。

そのため、04年にMASCCで作成された制吐療法ガイドラインに高度催吐性の抗がん剤には、「3剤併用」が標準治療として組み込まれました。

パロノセトロンは単剤の効果を調べる臨床試験から始まり、デキサメタゾンとの併用効果を調べる臨床試験が第2相段階だったため、04年のガイドラインでは「セロトニン受容体拮抗剤の中でのパロノセトロンの位置づけは、多剤併用の第3相臨床試験なしには評価できない」とされました。

しかし、その有効性には大きな期待がかけられています。

パロノセトロンは代謝に時間がかかるため、長く体内にとどまります。そのため、遅発性悪心・嘔吐にも有効なのです。

また、受容体にくっつき、受容体そのものを変化させるという性質もあります。ほかのセロトニン受容体拮抗剤は受容体にくっついても、受容体の形を変えません。ですから、はがれ落ちるとまたセロトニンがくっつき、吐き気を起こしてしまいます。ところが、パロノセトロンがついた受容体は形が変わるので、はがれ落ちた後もセロトニンがつきにくくなります。

さらに、受容体への結合も強いなど、複数の作用でセロトニンをブロックします。

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