全国でも珍しい男性限定の患者会で、前立腺がんの体験が語られ始めた
男性患者よ、もっと思いを伝え合おう

取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2012年1月
更新:2013年4月

  
鳴川洋一さん
TOMOの会の代表を務める
鳴川洋一さん

女性を中心に運営されているがんの患者会が多いなかで、男性特有の病気、前立腺がんでつくる患者会が、「TOMOの会」。
人にはなかなか言えない悩みも、ここでなら打ち明けられると意気盛んです。

トモセラピーの治療仲間が集まって

TOMOの会は、東京・江戸川区にある江戸川病院でトモセラピーの治療を受けている前立腺がんの患者さんたちの会で、2011年2月に立ち上げたばかり。

「TOMOの会という会の名前は、同院が07年に導入した最新の放射線治療機器トモセラピーの"トモ"と、日本語の友だちの"友"をかけたものです」と語るのは、TOMOの会代表の鳴川洋一さんだ。

トモセラピーの装置

トモセラピーの装置。患者さんは固定具の上に横たわり、装置の中に入る。診断と照射が同時にできるので、正確に放射線を当てられる

トモセラピーは、複数の方向から放射線の強度を変えて照射し、病巣に集中してあてる「強度変調放射線治療」という照射法の専用装置。

一般に行われる放射線治療は「リニアック」(直線加速器)と呼ばれる装置を使っているが、まんべんなく放射線を照射するため、周辺にある正常細胞にも放射線があたるのが欠点。トモセラピーは、放射線を照射したい部分だけに集中させるので、効率よい治療が期待でき、副作用を軽減する利点もある。

「前立腺がんの放射線治療に力を入れている江戸川病院には、2台のトモセラピーが導入されていて、近隣はもちろん全国から患者さんが集まってきます。外来で治療を受けるうちに、同じように通院する人と自然と言葉を交わすようになりました。治療後も定期的に腫瘍マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)検査に来ますから、ますます親密度は深まって、『いっそのこと、みんなで集まって会をつくりたいね』ということになったんですよ」

「戦友」同士のざっくばらんな会話

2011年10月の第2回講演会の様子

2011年10月の第2回講演会の様子。全国から230人が集まり、会場は満員の熱気に包まれた

案内状を出すと予想以上の反響があり、2月17日に開かれた第1回の会合には約200人を超える患者さんが集まった。講演のあと、グループに分かれての交流会ではすぐに打ち解けあって、ざっくばらんのフリートーキングで大盛り上がり。10月7日の第2回会合にも230人が集まり、「こうした会がいかに求められていたのかが、よくわかった」と言う鳴川さん。

「男性というのは、病気のことを人前ではあまりしゃべりたくないのです。職場だったら上下の関係もあるし、ましてや自分が病気で、しかもがんで苦労を抱えているなどという弱みはなかなか見せたくない。医師には病気の根本的な治療を求めますが、日常生活については、あまり聞こうとは思わないものです」

ところが、患者さんの悩みには、放射線治療が終わったあと、腸の炎症で起こる下血や頻尿など、生活に密着したことが多い。人前では話しにくいことばかりだが、"戦友"同士だと自然に話せるという。

「お互い同じ病気を持っているので、話すと状況がすぐにわかってもらえるし、『自分の場合はこうだった』と情報が手っとり早く返ってきます。話にさらに人が加わると、『いや、自分の場合は、ここがこう違う』と、非常に具体的な話が率直にできます。そこから役立つアドバイスが得られることが実に多いのです」

同病院がん相談支援室の川副由美子さんは言う。

「実際、悩みを共有する方同士の気軽な話し合いの中で、『そこは先生に聞いてみたほうがいいんじゃない?』という話になり、担当医に相談したところ、問題が解決した例もあります」

悩みを話せる場があることが大事

治療を進めていく患者さんにとって、さまざまな治療過程にある人の体験が直接聞けることが、実際大きな支えになっているという。

例えば、出血などは比較的長く続くケースがあるが、少しずつ頻度が減っていく。峠を越え、まさにいま治まりつつある人もいる。出血が続いている人にしてみれば、峠を越えた人の話を聞くと安心するし、先が見通せることは、療養していくうえでの安心感として、大変大きいという。

「排尿障害や下血で悩んでいても、先輩の患者さんが自然に治っていくのを見て安心できます。支え合い、助け合いができるのも患者会のよさですね」と話す鳴川さん。

「前立腺がんでの悩みを話せる場があることで、療養生活が格段に過ごしやすくなる。そのことをぜひ、多くの前立腺がんの患者さんや医療者に、もっと知ってもらいたい」と話す。

話し出されつつある「性の悩み」

治療の1つにホルモン療法があるが、男性ホルモンの分泌を抑えたり、女性ホルモンを投与したりするため、勃起障害や性欲減退などの性機能低下が起こることがある。手術によって同様の影響が及ぼされる可能性もある。

こうした悩みは医者にもなかなか言いづらいものがあるが、幹事の1人、辻聡さんはこう語る。

「会ができてから、みなさんからの先生に対する質問を集計しているところですが、性に関する質問もボツボツですが出始めています。今までは、会の中で直接話し合っても、さすがにそこまでは話題がのぼりにくかったのですが、だんだん出てくるようになりましたね」

性機能が低下するだけでなく、体毛の脱毛や性感覚の変化など、心身の思わぬ変調は、一時的な現象とはいえ、気になる人も多い。これまでは、こういった性の問題について、患者さん同士が話せる場はほとんどなかったが、患者さんたちがこれらの話題を共有できる場を求めていることは、確実だ。これはこの会ができたことによって発信できるようになった前立腺がんの患者さんの"新たな声"の1つといえるだろう。

また、トモセラピーなどの放射線治療を始める患者さんは、ホルモン治療を終えた後なので、ホルモンバランスの変化による心身の変化が起こり始める。このような変化についても、医療者には是非把握してほしいという。ただし、個人差も大きく、患者同士がどの程度共有できるものなのか、見えない部分も大きい。

「こうした問題についても、患者の本音の声として、今後時間をかけて引き出していきたい」というTOMOの会。患者さんたちの生の思いを患者会として発信する。それが、医療者の側にもフィードバックされれば、よりQOL(生活の質)を重視した支援が実現されるに違いない。

前立腺がんをもっと知ってほしい

[前立腺がんの患者数の予測]
前立腺がんの患者数の予測

(大島明ほか編:がん・統計白書2004、篠原出版新社より引用改変)

「トモセラピーが意外と知られていない。もっと多くの人に知ってほしい」。これも、TOMOの会のメンバーたちの率直な気持ちである。

同病院では、トモセラピーによる治療開始以来、4年足らずで800人近い前立腺がんの患者さんに治療を実施し、手術と同程度の効果を上げているという。

それほど効果が期待できるのに、まだ日本には20台ほどしか設置されていない。なぜなら、億単位の高価な機器であるためだ。「それなら公的な助成を進めるなどできることはいくらでもあるはず」と、鳴川さんらは声をそろえる。

「トモセラピーという治療法があることを知らない人も多い。そしてそもそも、病気になるまで多くの男性が前立腺がんの知識をあまりもっていないように思います。前立腺がんは、男性が長生きできるようになって、顕著になった病気です。罹患者数は増え続け、生涯で1~2割の男性が発症するのですから、だれもが自分にも起こりうる問題として考えておきたいこと。若いときから、予防のことや罹患した際の情報について触れておいてほしいと思います」

そのような情報の普及もこの患者会の役割であると、鳴川さんは語っている。


TOMOの会

連絡先: TOMOの会事務局(江戸川病院がん相談支援室)
〒113-0052 江戸川区東小岩2-24-18
TEL: 03-3673-1221
ホームページ: http://www.edogawa.or.jp/tomo/

(構成/町口充)


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