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子どもの目のがん、網膜芽細胞腫の早期発見をめざす親たちの闘い
「網膜芽細胞腫って何?」そう思ってくれることが第1歩

取材・文:「がんサポート」編集部
(2011年9月)

池田小霧さん
「すくすく」代表の
池田小霧さん

子どもの目のがん、網膜芽細胞腫は、早期発見できれば眼球を摘出せずに済む。しかし、あまり知られていない病気のため、医療者さえ見落としてしまう。そこで、我が子と同じ思いをさせないようにと早期発見を訴えて、この病気の子どもを持つ親たちが立ち上がった。

年間80人しか発症しない子どもの目のがん

左目が網膜芽細胞腫におかされ、目が光っている赤ちゃん
左目が網膜芽細胞腫におかされ、目が光っている赤ちゃん。このように片目だけ光ることが多い

池田小霧さんが次男の目の異常に気づいたのは、産後わずか1週間ごろのことだ。

「片方の目だけが光っていたのです。おかしいと思ってすぐに病院に行き、国立がん研究センター(現・国立がん研究センター)に紹介されて診てもらった結果、『網膜芽細胞腫』と告知されました。そんな病気があることさえ知らなかったし、『なんでうちの子が?! 自分の何が悪かったんだろう』と大変なショックでした」と池田さんは振り返る。

「網膜芽細胞腫」。日本では年間たった80人しか発症しない、子どもがかかる目のがんである。1万5000人の出生児に1人の頻度で発症し、男女差はない。目のなかにある、光を感じる網膜から生じ、片方の目だけの場合を片眼性、両方の目の場合は両眼性という。片眼性が全体の65~70パーセントを占め、3歳くらいから就学前に見つかることが多い。一方、両眼性は30~35パーセントで、発症年齢は生後すぐから1~2歳など低いケースが多いという。

治療法としては、全身化学療法()で腫瘍をできるだけ小さくし、眼動注()やレーザー照射()などの局所療法()で根絶を図る。それでも腫瘍が死滅しない場合、局所療法と併せて放射線外照射療法()も検討する。後述するが、2次がんの起こりやすさから、最近は放射線治療を避ける傾向にある。

池田さんの次男は、両眼性と判明。放射線外照射療法や温熱療法などを行ったが、最終的には進行していた左目は摘出し、右目は残してレーザー照射、眼動注などを受けた。治療のため1歳まで入院し、その後も再発、再々発してレーザー照射などの治療を受けた。現在は中学3年生になり、年1回の定期検査を受けるのみ。バトミントン部に所属して元気に活躍している。

全身化学療法=3種類の抗がん剤を4週間ごとに6回繰り返す治療法
眼動注=バルーンカテーテルという特殊な管を脚の付け根の血管から入れて、眼球に流れる眼動脈だけに抗がん剤を注入する治療法
レーザー照射=ダイオードレーザーという、波長の長いレーザーを使って、腫瘍に直接照射する
局所療法=ここでいう局所療法とは、全身化学療法、放射線外照射療法以外の治療法(眼動注、レーザー照射、冷凍凝固、アイソトープ治療、硝子体注入など)を指す
放射線外照射=麻酔を使わず、患児を動けないように固定してから 1回数分以内で毎日照射する

保健師や小児科医にこの病気を知ってほしい

網膜芽細胞腫の子どもたちとその家族
年1回の勉強会に集まった、網膜芽細胞腫の子どもたちとその家族

池田さんは現在、網膜芽細胞腫の子どもをもつ家族の会「すくすく」の代表を務めている。同じ病気を持つ家族同士、情報を交換し、悩みや不安を共有して支え合おうという患者会である。会員は約250名で、毎月の定例会や年1回の勉強会の開催、出版物の刊行のほか、網膜芽細胞腫の早期発見のための啓発活動も行っている。

網膜芽細胞腫は、池田さんのように目が光っていたり、斜視で見つかるケースが多い。しかし、親が異常に気づいても「なんだろう」と思ううちに2~3カ月、半年と過ぎ、病気が進行してしまう。そして後で、すぐに受診しなかった自分をひどく責める事態につながるのだ。

そこで池田さんがまず訴えるのは、乳幼児健診を担当している保健師や小児科医に対して、この病気の教育を徹底してほしいということである。

「乳幼児健診の保健師さんは、この病気についてよく知りません。小児科医は知識はあるかもしれませんが、この病気の子どもを診た経験がほとんどなく、気づかないのだと思います。

そのため、母子手帳に『ひとみが白く見えたり、黄緑色に光って見えるときは眼の病気の心配があります。すぐに眼科医の診察を受けてください』と書いてあるにもかかわらず、保健師や医師が斜視だと思い込んで『もう少し様子を見ましょう』と言ったりして、どんどん進行してしまうのです」

網膜芽細胞腫は小児がんだが、かかるべき診療科は小児科ではなく眼科である。しかし、子どもが小さい間、多くの親は何か病気を疑った場合、小児科医にかかることが多く、そのため見逃されるケースが起こるのだ。

母子手帳へ病名を記載してほしい

そこで池田さんは、母子手帳へ病名を記載してほしいと言う。「『網膜芽細胞腫』という名前だけでも載せてほしいのです。子どもが小さくて周りに友人ができるまでは、親は1番身近な保健師さんにさまざまな心配事を相談します。だから、保健師さんがこの病気について知っていて、ひと言『眼科へ行ってみたら?』とアドバイスしてくれれば、かなり早期発見につながると思います」

早期発見することが、なぜ重要なのだろうか。池田さんは理由を3点挙げてくれた。

1点目は、かなり早期に発見すれば、眼球を摘出せずに治療できること。

2点目は、早期であればあるほど治療の選択肢が増えるため、負担の少ない治療法を選べること。放射線治療では、放射線をこめかみ周辺に当てるため、成長したとき、こめかみが少し凹んでしまうし、全身化学療法では脱毛することもある。また、どちらの治療法も白血病や横紋筋肉腫、骨肉腫など の2次がん発症の危険性が高まる。さらに、全身化学療法は治療が半年以上と長期にわたり、子どもの心身への負担が大きい。しかし、少しでも早く見つかれば、より体への負担や副作用が少なく、短期間で行える治療を選択できるのである。

3番目の理由は、転移の危険性だ。網膜芽細胞腫の5年生存率は約93パーセントで、生命の危険性はそれほど高くない。しかし、眼球壁を越えて脳転移を生じたら1割も助からない。つまり、腫瘍が眼球内にとどまっている早期のうちに発見し、治療することが大切なのだ。

高価な義眼の適正価格を見直してほしい

眼球を摘出した場合は義眼を入れる。目やにが出やすい、目の下が腫れる、乾燥するなどの場合もあるが、意外と管理は難しくないそうで、小学校入学ごろには自分で洗えるようになるという。朝、洗顔と歯磨きをするのと同時に義眼を洗う習慣さえつけば問題ない。

問題は費用だ。義眼片方で9万2000円から20万円するものまである。義眼は、顔の大きさが決まる10歳くらいまでは成長に合わせて、その後は2年おきに交換したほうがよい。一生涯と考えれば大変な費用だ。

網膜芽細胞腫は厚生労働省が指定する小児特定慢性疾患の1つとして認められていて、厚生労働省が設定した義眼の適正価格の7割が健康保険で補助される。現在、設定されている適正価格は6万1800円で、7割の4万3260円は健康保険で補助される。しかし、3割の1万8540円と差額分は自己負担となる。つまり、1番安い9万2000円の義眼でも、4万8740円は負担しなければならないのだ。

「実は、適正価格は以前5万4000円だったので、健康保険で補助される金額は3万7800円でした。私たちが厚生労働省に働きかけて、なんとか今の価格まで引き上げてもらいました。それでもまだ実際の価格との開きは大きいですよね。自分たちで全国の義眼業者の価格を調べて一覧表を作るなどして、義眼業者に値段を適正価格に合わせるように言ってもらえないか厚生労働省にお願いしていますが、なかなか変わりません」

義眼に対するいわれのない偏見や差別

また、義眼でも日常生活を送るのにまったく問題ないのに、偏見や差別を受けることもある。 たとえば、子どもの友達やその親たちから「目の病気だからうつる」と言われて避けられたり、街中ですれ違うとき、あからさまによけられたり、女子高生に目をじーっと凝視されたこともある、と池田さん。

網膜芽細胞腫の早期発見を促すポスター
網膜芽細胞腫の早期発見を促すポスター。掲示にご協力いただける保健所や病院、個人の方はぜひ事務局までご連絡ください

保育園や幼稚園への入園時や小学校の入学時にも、偏見にぶつかる。健常者と同じように生活できるのに「義眼の子の面倒は見きれない」と断られたり、障害者枠で入れば、補助の先生を1人つけることができるので、障害者手帳を取ってくれと言われることもある。就職時にも、同様に障害者枠でなら就職させてあげると言われるそうだ。企業は障害者を雇用することを義務付けられているからである。しかし、両眼に障害がないと、障害者手帳は発行されない。

このような偏見・差別をなくす第1歩は、できるだけ多くの人に網膜芽細胞腫という病気があると知ってもらうことだ。「すくすく」ではこの病気の早期発見・早期治療を訴えるポスターを制作し、自分の住む地域の保健所や小児科、産婦人科に掲示してもらうよう働きかけている。

「こんな病気があるんだということをお母さんたちに知ってもらえれば、もし周りにそういう子がいたときに気づくかもしれないし、『病院へ行ってみたら?』と言ってもらえるかもしれないでしょう。内臓の病気と違って、目の病気は見ればわかるので発見しやすい。病気のことと、早期発見の大切さを知っていれば、それができるのです」と池田さんは強調する。

20歳になってから再発し、眼球を摘出した方もいるという。子ども自身も親も一生再発の不安と闘っていかなければならないし、摘出すれば一生の問題だ。だからこそ、池田さんたちは早期発見を繰り返し訴える。

「目が光っているとか、少しでもおかしいと思ったら、小児科ではなく眼科へ行ってください。小児眼科であれば、なお慣れていると思います」


「すくすく」事務局

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