骨髄移植にまつわるこんな問題、あなたはご存知ですか? サバイバーやドナー経験者が語る、骨髄移植の実際とその課題

取材・文:「がんサポート」編集部
(2010年12月)

後藤菜都美さん

NPO法人全国骨髄バンク推進連絡協議会理事の後藤菜都美さん

白血病などの血液難病の患者さんの治療法として知られる「骨髄移植」。骨髄バンクに登録する骨髄提供希望者、いわゆるドナー登録者は36万人に達した。しかし、9割以上の患者さんに適合するドナー候補者が見つかっても、実際の移植率は約6割だという。何が背景にあるのか。ほかには、どんな課題があるのか。

毎年新たに2,000人の患者さんに骨髄移植が必要

写真:設立20周年記念大会で

2010年6月、全国協議会の設立20周年記念大会で、骨髄バンクの登録を求めるチラシを結びつけた風船を飛ばす後藤さん(たすきがけをしたメンバーの左から6人目)

写真:銀座でのパレード

2008年12月、骨髄移植が10,000例、さい帯血移植が5,000例を超えたのを機に、ドナーへの感謝を込めて、移植を受けて元気になった元患者さん、ドナーなどが銀座でパレードを行った

「骨髄移植」と聞くと、どんなイメージが浮かぶだろうか。「半身不随になることがあると聞いた」「骨髄は背骨や脊髄から採るらしい」――そんな誤ったイメージを持っていないだろうか。

骨髄移植とは、骨髄提供希望者(ドナー)から骨髄液を採取し、それを白血病など血液の病気を持つ患者さんの体内に入れて、患者さんの壊れた骨髄と入れ替えていく治療法。日本では毎年新たに約6,000人の重い血液難病の患者さんが発病し、そのうち約2,000人に骨髄移植が必要だといわれている。

骨髄移植が必要な患者さんのために、血縁関係のない健康な人(非血縁者)から提供される骨髄液を患者さんにあっせんするシステムが、骨髄移植推進財団を中心とする「骨髄バンク」だ。

骨髄移植を行うためには、ドナーと患者さんのHLA型(ヒト白血球抗原型)が適合していなければならない。適合確率は兄弟姉妹間で4分の1、親子間ではほとんどなく、非血縁者間だと数百人~数万人に1人しか適合しない。そのため、広く一般からドナーを募る骨髄バンクが必要となる。

2010年9月末現在、ドナー登録者は約36万8,000人、骨髄バンクを介した骨髄移植は1万2,200例を超えた。

NPO法人全国骨髄バンク推進連絡協議会(以下、全国協議会)には、日本全国で骨髄バンク推進のために草の根運動を展開しているボランティア団体が加盟している。現在、42団体が加盟しており、全国36都道府県でボランティア活動が行われている。静岡でボランティア活動を続けてきた後藤菜都美さんも、骨髄移植を受けた経験を持つサバイバーの1人である。

ドナーが見つかることをひたすら願い続けた日々

後藤さんは03年、建築学専攻の大学院生だった24歳の夏に「骨髄異形成症候群」()と診断された。骨髄異形成症候群の治療法は、基本的には骨髄移植しかない。HLA型が適合しても、さまざまな理由により何人もの候補者が消えていくなかで、後藤さんはドナーが現れるのをただただ待ち続けた。

やっとドナーが見つかったのは翌04年春。40代の女性が提供者だった。しかし、骨髄移植をしても、GVHD()や拒絶反応などの合併症によって亡くなる危険性もある。病気の種類にもよるが、骨髄移植の成功率は4~8割。後藤さんも死を覚悟して、両親への遺書を書いたという。

04年3月、移植を待たず、後藤さんは、骨髄異形成症候群から急性骨髄性白血病に移行したため、まずは寛解()をめざして化学療法を実施。続いて4月下旬、いよいよ骨髄移植に向けて準備が始まった。ドナーの骨髄を受け入れるために、後藤さんの病んだ骨髄を抗がん剤や放射線ですべて破壊し、血液がつくられない状態にするのだ。治療の副作用は想像以上にきつかった。

「吐き気がひどくて全然動けず、ベッド脇に置いたメガネを取ることもできない。口内炎で自分の唾液でさえしみるので、よだれも垂れ流しっぱなしでした」

つらい状態を耐えながら骨髄移植を終えた。移植1年後、自宅療養するなかで、骨髄バンクのホームページを見ていて見つけたのが「静岡骨髄バンクを推進する会」。全国協議会に加盟している静岡県の団体である。

「同じ病棟で亡くなっていった患者さんのためにも、私に骨髄を提供してくれたドナーさんのためにも、絶対元気になって社会に貢献したかった。そこで、今の私に何ができるのか、この会に聞いてみようと電話したのです」

そして、地元マラソン大会での、骨髄バンクへの登録を呼びかけるチラシ配りをしたのを皮切りに、同会のボランティアとして活動を始めた。08年には現在の勤務先である建築事務所に就職。再発の可能性が低くなる5年が経過し、09年7月には全国協議会の理事に就任した。

骨髄異形成症候群=骨髄中の造血幹細胞に異常が生じる血液のがんの一種
GVHD=移植片対宿主病。HLA型が一致していても、患者側のリンパ球が移植されたもの(移植片)を拒絶したり、逆に移植片が移植を受けた患者さん(宿主)を攻撃したりすること
寛解=病気による症状が好転または、ほぼ消失し、臨床的にコントロールされた状態

働きながらの骨髄提供は高いハードル

30万人にドナー登録者が達した現在、骨髄移植を希望する患者さんの9割以上に少なくとも1人以上のドナー候補者が見つかるようになった。しかし、実際にはそのうちの約6割の患者さんしか骨髄移植を受けられない。ドナー登録をしていても、いざ提供する段階になると断られるケースもあるという。それには次のような理由がある。

まず、圧倒的に多いのが、登録時には健康でも、適合通知が届いた時点で何らかの病気の治療中、妊娠・出産・授乳中といった、健康上の理由である。

自分の意思で登録したものの、提供する段階になって、後遺症が残ることを心配する家族の同意が得られないケースもある。

健康上の理由の次に多いのが「都合がつかない」というもの。骨髄採取時には通常3泊4日程度入院するほか、提供前後の健康診断、自己血輸血()にそなえての採血や諸手続きなどのため、計6~10回通院しなければならない。これが、働きながら提供したい人には高いハードルとなる。いざ選ばれても「どうしても仕事の都合がつかないため、今回は見送らせてください」というケースが多いのだ。

自己血輸血=骨髄提供に伴う貧血を軽減するため、骨髄提供前にあらかじめ採血し保存しておいた自分の血液(自己血)を輸血すること

痛みを忘れさせてくれる骨髄提供をした喜び

写真:静岡骨髄バンクを推進する会の(前列左から)古屋正義さん、堀井康行さん、(後列の)四條貴仁さん

静岡骨髄バンクを推進する会の(前列左から)古屋正義さん、堀井康行さん、(後列の)四條貴仁さん

ドナー経験を持つ「静岡骨髄バンクを推進する会」副会長の堀井康行さんは「ドナー休暇がもっと普及してほしい」と話す。公務員や一部企業では、たとえば最大10日間の有給休暇が取得できる「骨髄ドナー特別休暇制度」が導入されているが、まだ十分に普及していない。「さらに、もし土・日曜日に事前の健康診断などの検査が病院で行えれば、状況はずいぶん違ってくるでしょうね」と堀井さん。

採取後の痛みはどうか。痛みをまったく訴えない人もいるが、通常は1~7日で消えるという。同会事務局長の古屋正義さんは、自身の骨髄提供の体験から「全身麻酔が切れた後は、痛くて起きることも背もたれによりかかることもできませんでしたが、1週間くらいで痛みが取れました」と話す。

患者さんが成人の場合、500~1,000ミリリットルの骨髄液を採取するが、同会運営委員の四條貴仁さんは提供相手が子供で300ミリリットルしか採らなかったため、「痛みもほとんどなかった」とか。なお、骨髄バンクを介してのドナーの死亡事例はない。万が一、健康被害が起きた場合は最高1億円の保障制度が整えられている。

「骨髄を提供した患者さんからお礼の手紙をもらったときは本当にうれしかった。自分と同じく『提供してよかった』というドナーさんがほとんどです」という四條さんの言葉に2人も大きくうなずく。

骨髄移植による不妊に悩む女性患者さんをなくしたい

一方、後藤さんは、女性ならではの視点で重要な問題点を指摘する。骨髄移植を受けると卵巣機能が低下し、ほぼ100パーセント不妊になるというのだ。

「この問題の解決法として、『卵子凍結保存』という、移植前に自分の卵子を保存しておく方法があります。しかし、そのことを知らされないまま移植して、後で悔やむ女性がたくさんいます。そうならないように婦人科と血液内科が一体になって治療してくれればいいのですが……。
昔は白血病は完治の難しい病気でしたが、今は骨髄移植や、移植しないでも薬で治る種類もあり、元気になる患者さんが増えています。だから医師には、患者さんが元気になったときに悲しむことがないように、将来のことも考えて治療してほしいのです。
卵子を保存するためには何度も病院に通って高い誘発剤を打つなど、経済的にも体力的にも大きな負担となります。また、卵子保存が行える病院も少なく、私も静岡から東京に通いました。ただでさえ骨髄移植でかなりお金がかかるので、卵子凍結保存が保険適用になって、骨髄移植とセットでできればいいのにと思います」

後藤さんは、発病半年前から付き合い始め、闘病中ずっと支えてくれた大学時代の先輩と、今年4月に結婚した。「闘病中、『治ったら子供を産めるかも』ということが心の支えでした。もし卵子保存していなければ、相手がよくても自分が後ろめたさを感じて結婚しなかったと思う」と後藤さんはきっぱり言い切る。それほど女性にとって切実な問題なのだ。

骨髄バンクでは、骨髄移植に加えて、非血縁者間の末梢血幹細胞移植()を10月から試験的に導入しており、今後徐々に拡大する予定である。この移植法は、患者さんの造血回復が早いこと、ドナーの自己血採血が必要なく、全身麻酔をしないため、手術室や麻酔医の確保が必要なくなるので移植までの期間短縮が望めることなど、多くのメリットが期待できる。血液難病を抱える患者さんにとって、骨髄移植、さい帯血移植()に加え、末梢血幹細胞移植が3つ目の選択肢として増えることは朗報だ。

これらの治療法や後遺症に対する理解が進み、少しでも課題が解消して、1人でもドナー登録が増えるよう期待したい。

末梢血幹細胞移植=顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)という白血球を増やす薬を3~4日連日皮下注射し、末梢血(体を流れている血液)中に造血幹細胞を増加させ、成分献血と同じ方法で造血幹細胞を採取し、骨髄移植と同様に患者の腕から輸血のように移植する治療法。海外では多数の国の骨髄バンクが採用しており、日本国内でも血縁者間では広く実施されている
さい帯血移植=造血幹細胞が多く含まれるさい帯血(母親と胎児を結ぶさい帯と、胎盤の中に含まれる血液)を利用し、骨髄移植と同様の方法で患者に移植する治療法


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