代表の若尾直子さん

必要な情報を得ることができる、相談と話し合いの場

2001年8月、乳がんのため左乳房全摘。同時に腹直筋皮弁形成術で乳房再建しました。そのとき、（比較的医療情報が手に入りやすい立場にいる）薬剤師であったにもかかわらず、自分にとって何が必要な情報なのか、また、何が不必要な情報なのかわからず、とても戸惑いました。

インターネットなどを通じ、巷には医療情報があふれているのに、自分にとって必要なことは何なのか皆目わからず、同じ経験を持つ人さえ、身近には探せませんでした。当時は地元に患者会もありませんでした。このときの思いが「山梨まんまくらぶ」設立の動機となりました。その後、協力してくれる友人や山梨県ボランティア・NPO協会スタッフの協力を得、2004年5月に会を立ち上げました。

設立当初は毎月定例会を開き、集まってきた仲間と情報交換やピアカウンセリングを続けました。また、情報紙『山梨まんまだより』を発行し、集まることのできない会員には郵送で情報提供。電話やメールなどで個人の悩みや情報提供にも対応しました。しかし、定例会の集まりは次第に悪くなっていきました。女性の30人に1人は乳がんになると言われている今、多くの会員が集まることで、それが大きな患者の声となり、山梨の医療環境の改善につながると過大な期待をしていたのですが、気持ちだけが空回りしていました。

そのとき、演劇をしている友人が「劇で乳がんのことを演じる」という案を出してくれ、協力してくれました。昨年は「人生は2度ない」と銘打って、会の有志も加わり、何度か寸劇を披露しました。内容は、自己検診や乳がん検診の大切さ、「がん＝死」は誤解であること、患者と家族の関係、患者が望む理想のドクター、乳がんに対する理解や啓発活動など盛りだくさんでした。

また、山梨県で活躍している乳腺疾患研究会のドクターたちが企画した「乳がん市民公開講座」において、患者の立場から検診などの問題点を演劇でアピールしました。これには本物のドクターも医師役で共演してくれ、来てくれた方々にもとても好評でした。患者も医療に積極的に参加することの大切さも伝えることができたと思います。

その他、会の存在をアピールする方法として、県民の日のイベントに出店し、会のメンバーに手伝ってもらいながらフリーマーケットを開き、健康管理の大切さや乳がん自己検診の方法が書いてあるパンフレットを配布しました。

今年は、「第2回がん患者大集会」に共催し、患者主体の医療実現に向けた活動の仲間入りを手始めに、患者も医療に積極的に参加し、賢い患者になることの大切さを話していこうと思っています。ここ山梨でも5月から何回かに分けて「賢い患者になりましょう」シリーズで、関心のある方々と会話式の講座を計画しています。ドクターとの会話から、積極的に治療に参加する方法や、診療ガイドラインの存在と重要性など、自分の経験から気づいたことなどを聞いてもらおうと思っています。

乳がんは長い経過観察を要する病気です。また、どんな病気もそうですが、徐々に準備期間を経て病気を告知されるのではなく、ある日突然「病気になる」ことが多いと思います。そんな現状を考えると、必要となったとき何がしかの話や相談ができる場所があればいいのかもしれないと感じます。個人の負担にならず、しかも必要なときの「藁」となれたらと思いながら、息の長い活動を続けていこうと思っています。

会の構成を表にしてみると、とてもしっかりした組織のように見えます。しかし実際は、ゆるいつながりで結ばれ、困ったときやちょっと気になるとき、気軽に連絡がとれるような集まりです。そしてその中での声が「患者の声」としてまとまり、今よりさらに患者主体の医療になることを願っています。

会を立ち上げるとき、ボランティアセンターの常務からアドバイスされたことがあります。

「継続することが大切だよ。1人になってもやり続ける気持ちが大切。この火を消しちゃだめ」。

季節外れの年越しそばではないけれど、長い活動を目指して、情報提供と患者同士のゆるいつながりを続けていきたいと思っています。そしてそれが患者の意識向上に繋がり、ひいては医療環境の向上に繋がることを夢見て。

山梨まんまくらぶ