浸潤性の膀胱がん。膀胱を温存する治療法とは?

回答者:島田 誠
昭和大学横浜市北部病院 泌尿器科教授
発行:2010年1月
更新:2013年12月

  

浸潤性の膀胱がんでT3と診断されました。主治医からは手術(膀胱全摘術)を勧められています。ただ、インターネットで調べたところ、抗がん剤と放射線を組み合わせて、膀胱を温存する治療法もあることを知りました。自分の力で排尿したいという希望もあります。膀胱を温存する治療法とは何か、また、その治療法のメリット、デメリットも教えてください。

(神奈川県 男性 49歳)

A 原則は膀胱全摘だが、化学放射線療法で膀胱温存も

T3の膀胱がんは、がんが筋層を超えて、膀胱周囲の脂肪まで浸潤している状態です。がんの筋層浸潤がある場合、治療法の第1選択は膀胱全摘術になります。

確かに、完治をめざすのであれば、膀胱全摘が勧められます。ただ、膀胱を全摘すると、人工膀胱をつくる場合を除いて、自分で排尿することはできなくなります。人工膀胱が適応になるのは、がんが膀胱頸部の近くにはないことなどが条件で、対象となる患者さんは多くありません。また、出血量が多く、手術時間の長い大変な手術で、どの医療施設でも行っているわけではありません。ですから一般的には、膀胱全摘を行えば、尿路変更の手術を行い、おなかから排尿することになります。

お尋ねの「膀胱を温存する治療法」としては、放射線治療と抗がん剤治療を組み合わせる方法(化学放射線療法)があります。その際の抗がん剤治療は、末梢の静脈から抗がん剤を注入する全身化学療法が主体ですが、ある1カ所に集中的に、抗がん剤を投与したい場合には、動脈から抗がん剤を注入する動注療法が功を奏します。

この動注療法では、高濃度の抗がん剤が腫瘍に届くため、抗がん剤の効果が最大限に期待できます。手術をせずに、放射線治療と抗がん剤の動注療法で腫瘍が消失する症例もたくさんあります。

化学放射線療法の最大のメリットは、膀胱を温存でき、自分で排尿できる点です。デメリットは、放射線と抗がん剤の副作用です。とくに気をつけなくてはいけないのは放射線治療の副作用で、血管が傷み、血尿が出ることが比較的多くあります。これは膀胱の粘膜の血管が炎症を起こした状態で、放射性膀胱炎といいます。

放射性膀胱炎は不可逆的な症状で、病変は元には戻りません。強い放射性膀胱炎が起こると、血尿が止まらなくなるなど、重い症状を引き起こします。こうした重篤な放射性膀胱炎が起こる割合はごくわずかですが、注意を要します。

一方の膀胱全摘術は大がかりな手術で、場合によっては、術中死が起こることもあります。膀胱全摘術の術中死の割合は、日本では明らかではありませんが、アメリカでは、約1パーセント起こると記している書籍もあります。しかし、手術が成功すれば、がんを完全に取り切ることができます。

医師としては、第1選択の膀胱全摘術を勧めますが、ご自身での排尿を希望されるのであれば、動注療法を用いた化学放射線療法を検討されるのもよいと思います。

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