エンハーツを勧められたが

回答者●上野貴史
板橋中央総合病院乳腺外科医長
(2023年9月)

5年前、左乳房に5㎝の腫瘍が見つかり、がんと診断され摘出手術を行いました。リンパ節転移が1個、ホルモン受容体陽性、HER2陽性でした。術後EC療法を4サイクル、ハーセプチンとパクリタキセル併用療法を1サイクル行った後、ハーセプチンとホルモン療法の併用療法を9カ月行いました。

2年後に肝臓に転移が見つかり、知人から陽子線治療の話を聞いて、陽子線治療を受けました。肝転移は一時縮小しましたが、翌年再増大し、放置していたところ痛みが出たため、薬物療法を受けましたが十分な効果が得られず、昨年(2022年)転院して経皮的ラジオ波焼灼療法(RFA)を始めました。しかし、多臓器転移が見つかったためRFAを中止しました。前の病院でエンハーツという薬を勧められましたが、副作用が強そうなので迷っています。他に良い治療法はないでしょうか。

(60歳 女性 神奈川県)

カドサイラを最初に使用するのも1つの方法

板橋中央総合病院
乳腺外科医長の上野貴史さん

ご相談者の場合、エンハーツ(一般名トラスツズマブ デルクステカン)を勧められたが、副作用を心配して迷っているとのことですが、確かに副作用として間質性肺炎が1~2割の割合で発症するリスクがあります。

最初の化学療法を行ってから肝転移発見まで2年以経過していますので、最も生存期間が延びるとされる標準初回治療はハーセプチン(同トラスツズマブ)+パージェタ(同ペルツズマブ)+タキサン系薬剤併用療法です。

効かなくなればエンハーツ、その後カドサイラ(同トラスツズマブ エムタンシン)と使用するのが現在の標準的治療です。副作用をできるだけ避けたいのであれば、全生存期間は短くなる恐れはありますが、脱毛がなく、副作用が最も少ないカドサイラを最初に使用するというのも、とくに脱毛を避けたい場合の1つの方法です。この薬の効果がなくなったら、標準治療に戻すという方法も考えられます。