HER2陽性にアドリアシンとエンドキサンの治療法は適切か

回答者:上野 貴史
板橋中央総合病院 外科医師
(2009年12月)

2009年1月に、左胸の右上部の手術をしました。がんの大きさは2センチ、浸潤性、ステージ(病期)1、悪性度2でした。再手術を提案されましたが、放射線治療を希望し、ライナックの治療を受けました。HER2陽性でしたので、2009年4月末からハーセプチン(一般名トラスツズマブ)の治療を3週間ごとに7回行いました。「8回目から抗がん剤のアドリアシン(一般名ドキソルビシン)とエンドキサン(一般名シクロホスファミド)の点滴に変えます」と、担当医からいわれました。HER2陽性の私に、この抗がん剤による治療方法は適切なのでしょうか。また、抗がん剤の副作用にも不安があります。

(島根県 女性 68歳)

A 術後のハーセプチン治療は抗がん剤と併用が標準

術後の病理検査の結果がわかりませんが、おそらく断端が陽性だったので、再手術を提案されたのだと思います。断端陽性の場合は、一般的には追加手術をして断端を陰性にして、その上で放射線治療をします。温存療法では断端陰性の場合でも、がんが残っている可能性があるため、術後に放射線治療を行うのが標準です。

補助ハーセプチン治療の効果は、抗がん剤治療も行ったときにのみ証明されています。そのため、ハーセプチンの投与は、抗がん剤治療と併用(あるいは投与終了後)して行うのが標準です。リスクが低い場合、例外的に抗がん剤を投与せずにホルモン治療と併用して行うこともありますが、臨床試験の裏づけはありません。本来ならはじめに補助抗がん剤治療を行い、その後1年間ハーセプチン投与を行うのが標準治療であり、ハーセプチンを先に行ってから抗がん剤治療を行うことは一般的ではありません。HER2陽性と陰性で使用する抗がん剤を変えるというデータはまだありません。

ハーセプチンとアドリアシンを併用すると心機能障害が増加するため、同時投与を避けるという注意が必要になります。HER2陽性の場合、アドリアシンの投与量を増加することで、それに見合った効果がみられるようになります。抗がん剤の内容は、病理検査後のリンパ節転移の個数やホルモン受容体の有無などによって決定します。

リンパ節転移がない場合なら、抗がん剤のアドリアシンとエンドキサンを併用するAC療法を4サイクル行うことは、選択肢の1つです。最近ではアドリアシンのかわりにタキソテール(一般名ドセタキセル)を用いるTC療法が同じ4サイクルで終わり、効果も高いため、好まれるようになっています。リンパ節転移が4個以上のときは、AC療法の4サイクルでは不十分と思われます。タキサン系薬剤を加えるのが一般的であり、アドリアシンの量ももっと増やすことが薦められます。

副作用は抗がん剤の種類によって異なります。どの抗がん剤を用いても脱毛や白血球の減少、口内炎などの副作用は出てくるかと思います。これまでの治療経過から見て、強いて注意が必要なことと言えば、ハーセプチンの治療をしたことによって、抗がん剤治療の心毒性が増えることかと思います。