ウィルムス腫瘍の化学療法。術前と術後のどちらがよいか
3歳半の息子がウィルムス腫瘍(腎芽腫)と診断されました。左側の腎臓で、生検の結果、予後は良好のタイプと言われ、少しだけ安堵しています。今後は、腫瘍のある左側の腎臓を切除する手術を行い、その後、抗がん剤治療をすると言われています。腎臓が1つだけになることが、親として、とても不安です。主治医は「大きな問題はない」と言いますが、今後の長い人生を考えても、大きな問題は本当にないのでしょうか。また、最近では、先に抗がん剤治療を行ってから切除手術をすることもあると、あるウェブサイトに書いてありました。それによって、切除する範囲を小さくすることができることもあるそうです。抗がん剤治療は手術前と手術後とで、どちらが望ましいのでしょうか。
(長野県 男性 31歳)
A 一長一短があり、欧米で見解が分かれる
医学的には、腎臓はどちらか一方があれば、天寿を全うできるだけの機能を保てるといわれています。ですから、ウィルムス腫瘍の根治をめざして、仮に左側の腎臓をすべて切除しても、生存に関わるような大きな問題はないと考えられます。
診断後に速やかに手術を行った後に行う術後化学療法と比較して、手術の前に抗がん剤投与(術前化学療法)を行うことがより有効であるかどうかは、議論が分かれています。大別すると、ヨーロッパでは術前化学療法を実施し、アメリカでは診断後速やかに手術をする方針をとっていて、日本では、アメリカに近い治療・研究を行っています。
病気全体で見たときには、ヨーロッパとアメリカの治療成績はほとんど変わらず、術前化学療法の有り無しでは、それぞれ一長一短があります。
術前化学療法は、手術前に数週間の化学療法を行います。それによって、腫瘍を小さくすることができ、手術で切除しやすくなります。また、腫瘍切除の際、腹腔内播種(腫瘍がおなかの中に散ってしまうこと)が起きてしまうことがあります。
しかし、先に化学療法を行い、腫瘍を小さくすることによって、腹腔内播種の危険性を下げることができます。
これらの点は、術前化学療法の長所といえますが、短所としては、手術までの期間、腫瘍が体内にとどまることになり、その分、転移する可能性が高まることが指摘されています。
一方、診断後速やかに手術を行うのは、転移の元となる腫瘍を速やかに切除し、転移の危険性を最小限にするという発想です。そして、体内の腫瘍の量を大幅に少なくしたうえで術後化学療法を行います。通常、診断時の大きさの腫瘍が問題なく切除できる場合には、この治療法が望ましいと考えられます。
術前化学療法と術後化学療法の長所と短所のほかに、腫瘍の大きさや浸潤の程度、転移の有無なども、治療法を選択する決め手になります。また、内科医や外科医の治療技術や医療施設の治療態勢、医師間の連携具合などによっても選択すべき治療法は異なるでしょう。
良好タイプのウィルムス腫瘍は、適切な治療を行えば、ほとんどの患者さんが治ります。治療法の選択は、ケースバイケースの部分が多々ありますから、前記のことをお知りになったうえで、改めて主治医によくご相談ください。