全身に転移。食事も出来ず、化学療法は可能?
兄(70歳)が今春、腸閉塞で入院し、検査の結果、上行結腸と直腸にがんが見つかり先月開腹手術をしましたが、腹膜播種が見つかり、結局、何の処置も出来ずに手術を終えました。がんは肝臓や肺にも転移しており、今後化学療法を行います。大腸のバイパス手術もできず、今のままでは、また腸閉塞を起こす可能性もありますが、食事も出来ず、栄養剤の点滴をしながら化学療法を続けていくことは可能でしょうか?
(62歳 女性 宮城県)
A 非常に厳しい状態。副作用のことも十分考慮して治療を
大矢雅敏さん
腸閉塞が起きてしまったにもかかわらず、バイパス手術ができず、また文面では人工肛門のことが全く触れられていないので、恐らく人工肛門造設術も受けておられないと思います。
この方の場合、上行結腸がんと直腸がんの両方があったようですが、上行結腸がんが腸閉塞の原因だと仮定します。このような場合には通常、上行結腸の手前の小腸を持ち上げて、人工肛門として便の出口を確保する人工肛門造設術を行うことが多いです。しかしこの方の場合、腹膜播種が高度で腸間膜が固くなり小腸が固まってしまうほどの状態で、バイパス手術や人工肛門造設術を行えなかったのだと思います。
化学療法を今後行うとのことですが、有効である可能性のある治療法の選択肢としては*FOLFOX療法のみとなります。というのは、この方の場合、経口摂取が不可能であるため、*XELOX療法などの経口薬を用いた治療ができないためです。大腸がんの化学療法には*FOLFIRI療法という治療法もありますが、この治療で用いるイリノテカン(一般名)という薬剤は、代表的な副作用の1つに腸閉塞がありますので、治療開始の時点で腸閉塞である場合は使うことができません。
通常、化学療法を行う場合には食事がとれることが前提になります。ですので、この方のような場合、化学療法を行うのは難しいのが実情です。残念ですが、状態は非常に厳しく、治療をするのならFOLFOX療法しか選択肢はありません。それでも、延命につながるほどの効果がない可能性も高いですし、全身状態(PS)が悪いので化学療法の副作用によって死期を早める可能性があることも十分考慮する必要があります。この状態でどういう選択肢があるのか、担当の先生とよくご相談なさった上で治療を始めることをお勧めします。
*FOLFOX療法=5-FU(一般名フルオロウラシル)+ロイコボリン(一般名ホリナートカルシウム)+エルプラット(一般名オキサリプラチン) *XELOX療法=ゼローダ(一般名カペシタビン)+エルプラット *FOLFIRI療法=5-FU+ロイコボリン+イリノテカン(商品名カンプト/トポテシン)