肛門近くにがん。肛門温存のためにISRを受けたいが対象となるか?
肛門近くの直腸に大きさ5㎝大のがんがあることがわかり、手術を予定しています。主治医からは、手術によって人工肛門になる旨が伝えられていますが、できれば人工肛門は避けたいと考えています。色々調べていたら内肛門括約筋切除術(ISR)という、人工肛門を回避する手術があることがわかりました。どういう人がこの手術の対象となるのでしょうか。ちなみに、がんは肛門から3~4㎝のところにあります。
(64歳 男性 岡山県)
A 可能であればISRではなく、超低位前方切除術を受けたほうがよい
大矢雅敏さん
肛門の機能は内肛門括約筋とその外側にある外肛門括約筋という2種類の筋肉によってコントロールされています。意識的に肛門を締めるのが外肛門括約筋、その内側にあるのが無意識に肛門を締める内肛門括約筋です。
ISRという手術では、この2つの筋肉の間にメスを入れ、がんのできた直腸と一緒に内肛門括約筋だけを切除し、外肛門括約筋を温存、肛門のほうから肛門と切除した直腸の端をつなぐ手術です。基本的には外肛門括約筋を残すことで、ある程度の肛門機能が温存されます。
ただこの方の場合、可能であればISRではなく、普通にがんを切除して、お腹のほうから直腸と肛門をつなぐ超低位前方切除術を行ったほうが、一般的に術後の肛門機能は良好です。
ISRには現在、明確な適応基準はありませんが、もう少しがんが小さくて、がんの位置も肛門に近い方が対象となります。ISRの術式の問題点は、がん病巣のすぐ近くを切り込む手術なので、局所再発のリスクがある点です。同じ進行度のがんであれば、ISRは超低位前方切除術よりも、局所再発のリスクは高いと言えます。したがって、この方のように5㎝もある腫瘍だと、ISRは行わないほうが良いと考えます。
永久人工肛門を避けるために、術前に放射線治療を行って、がんの勢いを低下させてISRを行う施設がありますが、術前に放射線治療を行った場合、手術後の肛門機能が非常に悪い場合があります。また、術前に放射線治療ではなく化学療法を行って腫瘍を小さくしてからISRを行う試みもなされていますが、臨床試験の段階できちんとしたデータはないのが現状です。
ご相談者の場合、がんの位置が肛門から3~4㎝ですので、体型にもよりますが、超低位前方切除術を行える可能性もあると考えられます。局所再発のリスクなども考えると、可能であればISRではなく超低位前方切除術を受けられたほうが良いでしょう。