バイパス手術を勧められているが、どういったメリットがあるか?

回答者・出江洋介
都立駒込病院食道外科医長
発行:2009年8月
更新:2020年3月

  

父(69歳)のことでご相談します。ステージ(病期)は4で、そのうち、周りの臓器にがんが浸潤しているT4と診断されました。食事がとれるようにするため、まずはバイパス手術を行い、食べ物が通る新たな道をつくると主治医に言われました。バイパス手術のためにがんの治療が遅くなったり、治療を受ける体力が落ちたりするのではないかと心配です。がんの治療より先に、バイパス手術をするメリットとデメリットを教えてください。また、インターネットで調べると、ステント挿入術(がんによって狭くなった食道にステントを通して、食事がとれるようにする方法)もあるようなのですが、バイパス手術とどちらがよいのでしょうか。

(熊本県 女性 37歳)

バイパス手術は、食事をとりながら、治療を受けられる

都立駒込病院食道外科医長の
出江洋介さん

食道の隣接臓器に浸潤があるT4の場合、通常、化学放射線療法が適応になります。ただ、そのまま治療を行うと、瘻孔形成などの重篤な合併症が多く見られます。

瘻孔形成とは、食道にあるがんが浸潤して、食道と、食道に隣接している気管に孔があき、食道と気管に交通ができてしまう(つながってしまう)ことです。

また、場合によっては、食道と大動脈がつながってしまい、大出血を起こし、そのまま亡くなってしまうこともあります。

こうした重篤な合併症を防ぐには、次の2つの方法があります。

(1)まず化学療法を行い、腫瘍を小さくしてから化学放射線療法を行う。

(2)まずバイパス手術を行ってから化学放射線療法を行う。

T4の食道がんでは、狭窄があるために、液体やゼリー状のものぐらいしか摂取することができないと推察します。

しかも、そうしたものでも、潰瘍に圧がかかり、瘻孔を形成しやすくなり、消化液の逆流などは瘻孔形成や全身状態悪化の危険性を高めます。そのため、(1)では、長期にわたる治療中、食事をとることができません。

しかし、(2)のようにバイパスをつくると、食事を摂取しながら治療を続けられる上、瘻孔形成の危険性を下げることもできます。

この点は、バイパス手術の大きなメリットといえます。バイパス手術のために、治療が遅れたり、体力が落ちたりすることは、一般的には心配される必要はないでしょう。

一方、ステント挿入術は、バイパス手術に比べ、手技が容易で、患者さんの体への負担が小さいというメリットがあります。また、バイパス手術と同様に、ステントを挿入すると、食事を摂取することができるようになります。

しかし、バイパス手術の場合と違い、原則として、追加治療をすることはできません。ステントを挿入した後に治療を行うと、腫瘍が崩れて、食道に孔があき、重い感染症を引き起こす危険性が高いためです。

バイパス手術を受けて、食事をとりながら、免疫力を維持しつつ、がんの治療を進めるのは、選択肢として十分にあるといえます。

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