卵巣がんの抗がん剤治療。腹腔内投与を選ぶべきか

回答者:宮城 悦子
横浜市立大学 医学部産婦人科准教授
発行:2008年8月
更新:2013年12月

  

卵巣がんと診断され、手術を受けました。今後は抗がん剤治療を受ける予定ですが、その方法の1つとして、腹腔内への投与を提案されています。主治医の説明では、通常は点滴(静脈注射)で行うとのことですが、点滴で投与すると、抗がん剤が全身に及び、副作用が強く出やすいそうです。一方、腹腔内投与はがんに直接、薬剤を投与するため、副作用が少なく、薬の濃度を高くすることもできると聞きました。この腹腔内投与をお願いしようと思いかけましたが、点滴が一般的であるという記述をインターネットで読み、迷っています。点滴と腹腔内投与のどちらを選ぶのがよいか、アドバイスをお願いします。また、腹腔内投与のメリットとデメリットを改めて教えてください。

(東京都 女性 55歳)

A 標準治療は静脈内投与。腹腔内投与は確立されてない

進行卵巣がんに対する腹腔内化学療法は、シスプラチンを中心に検討されてきました。とくに米国では、腹腔内投与法と静脈内投与法(静脈注射/点滴)とで幾つかのランダム化比較試験が行われていて、腹腔内投与をしたほうが生存率が改善したという報告も少なくありません。

しかし、これらの比較試験の解釈を巡っては、海外の専門家の間でも議論が続いていて、標準治療として確立するには至っていません。

また、最適な薬剤や用量なども定まっていませんし、毒性の問題を疑問視する専門家も少なくありません。毒性に関して1つ言及すれば、毒性が比較的少ないパラプラチン(一般名カルボプラチン)を用いる研究が現在、日本を中心に行われています。

いずれにせよ、前記のような状況にあるため、日本においても、手術後の進行卵巣がんの患者さんに対する腹腔内化学療法は、選択肢の1つにはなり得ても、標準治療にはなっていません。

実際、国内で腹腔内化学療法を行っている医療施設はかなり限られていますし、保険適用の問題もあり臨床試験や研究で行われているのが現状です。

私自身も、私が所属する施設でも、卵巣がんに対する腹腔内化学療法は行っておらず、具体的なメリット、デメリットも、なかなかお答えすることができません。主治医が腹腔内化学療法を選択肢の1つとして挙げられたのなら、今1度、それらに関し、理由をお聞きになるとよいと思います。

文面を読んだ限りでは、現状では一般的かつ標準的な治療である静脈内投与法を選ぶ施設が多いと思います。ただし、いずれの治療法を選ぶにしても、主治医の話をよくお聞きになり、インフォームド・コンセントを踏まえたうえでご判断ください。

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