術後、膵内分泌がんとの診断。今後の方針は?

回答者:上野 秀樹
国立がん研究センター中央病院 肝胆膵内科医師
発行:2011年5月
更新:2013年11月

  

夫が手術(膵頭十二指腸切除術)を受け、病理検査の結果、膵臓の内分泌がんと診断されました。このがんについて、いろいろ調べてみましたが、なかなか情報がなく、不安が募ります。どのような病気なのか、また治療方法や手術後のケアなども含めた、闘病生活について、詳しく教えてください。

(石川県 女性 62歳)

A 再発は病理所見により異なる。慎重に経過観察を

膵臓にできる悪性腫瘍の90パーセント以上は「浸潤性膵管がん」と呼ばれるがんであるため、通常は「浸潤性膵管がん」のことを「膵がん」と呼びます(「通常型膵がん」とも)。したがって、雑誌やインターネットなどに掲載されている「膵がん」の記事の多くは、「浸潤性膵管がん」を対象に書かれたものです。おそらく、相談者も「膵がん」について調べた結果、その多くが「浸潤性膵管がん」に関する情報であることにお気づきになり、戸惑われたのではないでしょうか。

しかし、膵臓には「浸潤性膵管がん」以外のがんができることがまれにあります。今回ご質問された「内分泌がん」は、それらの「膵臓にできるまれながん」の1つであり、「膵がん」の1~2パーセントを占めることが報告されています。

「浸潤性膵管がん」と比較すると圧倒的に患者さんの数が少ないことから、診断や治療に関するデータは不足しており、十分に提供することが難しい状況ですが、いくつかのポイントをお話したいと思います。

膵臓の内分泌がん(以下、膵内分泌がん)の予後は浸潤性膵管がんよりも良好であることが多いのですが、非常に予後が良いものから悪いものまでさまざまで、病理検査からある程度推測することが可能です。

具体的には腫瘍が小さく、ほかの臓器やリンパ節に転移がなく、高分化型腫瘍であればかなり良い予後が期待されます。

一方、腫瘍が大きく、周囲に浸潤したり転移したりしており、低分化型の腫瘍である場合には、再発する可能性が高く、厳しい予後が予測されます。

治療としては、根治できる可能性がある治療は手術しかありませんので、がんが膵臓に限局しており、切除可能であると判断された場合は手術が行われます。膵内分泌がんに関しては、手術後に化学療法や放射線療法などの補助療法を行うことのメリットは示されておらず、手術後は通常経過観察を行います。

その上で、再発が認められてしまった場合には、明確な治療指針は確立していないものの、高(~中)分化型と低分化型に分けて治療戦略を考えます。

高(~中)分化型が再発した場合には、比較的限局した再発であれば再切除を目指し、肝転移ならラジオ波焼灼療法、肝動脈塞栓療法などの局所治療を行うこともあります。

また、局所治療が困難な再発に対しては化学療法が試みられており、最近は、スーテントやアフィニトールといった分子標的薬が有効であることが報告されていますが、まだ日本では保険適用にはなっていません。

低分化型が再発した場合には、通常は再切除や局所療法で腫瘍をコントロールすることは困難であり、化学療法が検討されます。標準治療は確立しておらず、効果には限界がありますが、類似した肺小細胞がんに準じたプラチナ系抗がん剤などが使用されています。

また、膵内分泌がんはさまざまなホルモンを産生することがあり、再発した場合はホルモン過剰症状が現れることがあります。

その際、過剰なホルモンを同定した上で、症状を緩和する薬物(ソマトスタチンアナログ製剤)が使用されます。腫瘍がホルモン産生かどうかは、確認しておくと良いでしょう。

膵頭十二指腸切除術は体への負担が大きいので、術後は回復するまで無理をしないことが大切です。下痢や血糖値上昇などが見られることがあり、定期検査を受ける必要があります。

食事や日常生活においては、再発に影響するという科学的な根拠はありませんので、神経質になりすぎないで、できるだけ通常と変わらぬ生活スタイルを保たれることをお勧めします。

高分化型=核分裂をしている細胞が少なく、増殖スピードが遅い腫瘍のことをいう。Ki-67というタンパクの染色が判断に有用 スーテント=一般名スニチニブ アフィニトール=一般名エベロリムス 産生するホルモンによりインスリノーマ、ガストリノーマなどと呼ばれる 同定=何であるかを決定すること

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