術後の尿漏れでほとほと困っている

回答者●古賀文隆
がん・感染症センター都立駒込病院腎泌尿器外科部長
(2020年11月)

2012年3月、前立腺がん全摘手術を受けましたが、半年後に再発。現在カソデックス(一般名ビカルタミド)を毎日服用しています。3カ月ごとにがんセンターでPSA(前立腺特異抗原)検査を受けています。

そこでご相談ですが、術後リンパ浮腫での歩行支障やひどい尿漏れでほとほと困っています。主治医からはそれは治らないと言われ、ベタニス(一般名ミラベグロン)を処方してもらっていますが、全く効果はありません。失禁手術方や装具等いろいろ調べたりしていますが、未だ踏み切れないでいます。

最近、名古屋大学病院泌尿器科でヒト幹細胞を活用する再生医療の研究が進んで、保険適用を目指しているとの情報を得ました。この治療法は期待できるものなのでしょうか。よろしくお願いします。

(76歳 男性 北海道)

人工括約筋埋め込み術が最も有効

がん・感染症センター都立駒込病院
腎泌尿器外科部長の古賀文隆さん

尿漏れパッドが重くなり1日何回も取り替える必要があるような重度の尿失禁に対しては人工括約筋(かつやくきん)埋め込み術が最も有効であり、多くの患者さんが日常生活に支障が出ない程度まで改善します。保険診療で実施可能です。機械を埋め込む手術であるため、機械の故障や制御できない感染などの場合、摘出しなければならなくなることがあります。

ご質問のヒト幹細胞を用いた尿失禁手術は、名古屋大学HPによると治験で有効性と安全性を評価している段階のようです。対象は、中等度から軽度尿失禁の患者さんとしているようです。治験段階の治療であるため、有効性などの詳細は我々泌尿器科医の間でもまだ知れ渡っておらず、名古屋大学担当医に問い合わせてみることをお勧めします。

名古屋大のHPから抜粋しておきます。

男性では人工尿道括約筋埋め込み術という手術がありますが、これも人工物を体内に埋め込む必要があり、また適応は高度の尿失禁であり、中等度から軽度の腹圧性尿失禁には適切な治療がほとんどないのが現状です。

前立腺手術後の腹圧性尿失禁に対する自己脂肪組織由来再生細胞の経尿道的傍尿道注入治療の医師主導治験を平成27年9月から開始しています。世界初の男性腹圧性尿失禁に対する再生治療治験となり、名大泌尿器科が基幹施設となり、金沢大、獨協大、信州大と多施設共同医師主導治験(ADRESU試験)を開始したもので、治験完遂の目標症例数は45例で、2018年3月に全症例の組み入れを完了し、重篤な副作用は認めておりません。2019年3月で経過観察を終了し、総括報告書を作成後、薬事承認、および本治療の保険収載を目指します。

麻酔下に250gmの皮下脂肪吸引を行い、吸引脂肪組織からCelutionTMシステム(米国、サンディエゴ)を用いて脂肪由来再生細胞(ADRCs)を抽出し、これを経尿道的内視鏡下に注入します。ADRCsの注入は、ADRCs単独の外尿道括約筋部への注入、および脂肪組織とADRCs混合の尿道括約筋部粘膜下注入として実施します。脂肪吸引、ADSCs抽出、尿道注入までを3時間以内の一連の操作で実施することができ、前臨床研究では16例の前立腺手術後腹圧性尿失禁の男性患者において、1例で尿失禁消失、約70%で50%以上の尿失禁量減少の成績を得ています。