PSA値が10を超えたが、とても元気。治療は受けるべきか

回答者:島田 誠
昭和大学横浜市北部病院 泌尿器科教授
発行:2009年7月
更新:2013年12月

  

6年前に前立腺がんと診断されました。これまで治療を受けていませんでしたが、2009年の1月にPSA(前立腺特異抗原)の値が10を超えたため、主治医から治療を受けることを勧められています。がんは高分化型で、悪性度は低く、転移はありませんが、被膜の外に少し浸潤しています。PSA値の主な推移は次のとおりです(単位は「ナノグラム/ミリリットル」以下同)。

・2003年1月……5.2(ホルモン注射を受ける)
・2003年5月……0.9
・2004年1月……4.9
・2005年1月……6.3
・2006年2月……7.11
・2007年5月……8.34
・2008年10月……10.0
・2009年1月……12.2

現在、体調はすこぶる良好で、テニスや卓球などのスポーツを楽しみ、充実した毎日を送っています。治療などに関し、何を基準に、どのように判断したらよいでしょうか。治療を受けるとしたら、重粒子線治療などを考えています。寿命との関係、QOL(生活の質)などからもアドバイスをお願いします。

(千葉県 男性 77歳)

A 前立腺がんの再燃と考えて、治療を受けたほうがよい

結論からお答えしますと、何らかの治療が必要であると考えます。以下に、その理由を説明します。

NCCN(全米総合がん情報ネットワーク)では、前立腺がんを低リスク、中リスク、高リスクの3つに分けていて、それぞれに対し、治療基準を定めています。この治療基準は絶対的なものではありませんが、治療方針を決める際の指針になっています。

NCCNのリスク分類によると、低リスク、中リスク、高リスクの前立腺がんはそれぞれ次のとおりに規定されています。以下で記す「グリソンスコア」はがんの悪性度を意味し、2~10の9段階に分かれます。

▼低リスクの前立腺がん……「グリソンスコアは6以下」「PSA値は10未満」「臨床的なステージはT2a以下」の3点すべてを満たしている前立腺がん。

▼中リスクの前立腺がん……「グリソンスコアは7」「PSA値は10~20未満」「臨床的なステージはT2b~T2c」の3つのうちの1つ以上が当てはまる前立腺がん。

▼高リスクの前立腺がん……「グリソンスコアは8以上」「PSA値は20以上」「臨床的なステージはT3以上」の3つのうちの2つ以上が当てはまる前立腺がん。

質問文にグリソンスコアの記載はありませんが、高分化型の前立腺がんは、グリソンスコアでは通常、6以下に該当します。

がんは被膜外に少し浸潤しているものの、2003年1月の時点でのPSA値は5.2で、高分化型のがんであることなどから、当初のリスクは、低ないしは中リスクに分類されると推測します。

当初、5.2だったPSA値は1度受けたホルモン注射によって0.9まで下がり、その後も、5年間ほど1桁台を維持していました。このことから、進行はそれほど速くはないと考えられます。

とはいえ、PSA値は年々、確実に上昇している上に、2008年の10月以降は2桁にもなっています。しかも、2008年の2月以降は上昇の度合いが増しています。このことから、少なくとも現時点では、がんは明らかに勢いを増してきていると判断すべきです。

別言すれば、がんは再燃していると判断できます。いったん下がったPSA値が3回以上、連続して上昇した場合、前立腺がんは再燃したと定義されています(ただし厳密には、ホルモン治療を継続的に行っていることが前提条件です)。

現在のPSA値などから考えると、骨盤の中で、病巣は広がりつつあると推測できます。また、PSA値の最近の上昇度合いからすると、このまま治療しない場合、PSA値が早い段階で40や50、さらには100を超えることも考えられます。

一般的には、無症状で再燃して、治療を行わない場合の余命は5~6年といわれます。しかし、治療を行うことで、この期間はかなり延ばすことが期待できます。

治療法を選択するには、生検をもう1度行って、グリソンスコアを確認し、さらに、PSA値や臨床的なステージなども再確認した上で判断するのが望ましいと思います。

その結果、現在、仮に中リスクに入る場合は、放射線治療とホルモン治療を併用するのが標準的な治療法です。

ホルモン治療は以前よく効いたことと、まだ1回しか行っていないことから、高い効果が期待できると思います。

放射線治療の中では、重粒子線治療も考えられます。重粒子線治療は、がん細胞に対する殺細胞効果が高く、また、がん細胞に焦点を絞ることで、局所的な線量率を高めることができます。

また、IMRT(強度変調放射線治療)や通常の外照射も検討してよいかもしれません。IMRTは専用のコンピューターを用いて、放射線に強弱をつけ、病巣に集中的に高い線量の放射線を照射する新しい治療法です。合併症が少ないなどの特長があります。

いずれにしても、可能であればもう1度、生検などの検査を受けて、病状に適した何らかの治療を受けることが望ましいと思います。

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