効かなくなってきたオダインを中止してよいか

回答者:赤倉 功一郎
東京厚生年金病院 泌尿器科部長
発行:2009年5月
更新:2013年12月

  

79歳の夫のことで相談です。夫は、前立腺がんの治療を受けています。02年6月、PSA(前立腺特異抗原)値は262で、病理組織学的にはグリソンスコア(前立腺がんの悪性度を表す数字)8で低分化でした。骨シンチグラム(画像診断)の結果、転移が疑われました。そこで、ホルモン療法剤のLH-RHアナログ剤の注射と、抗アンドロゲン剤のカソデックス(一般名ビカルタミド)1錠を服用する治療を受けました。治療は奏効(効果があること)し、しばらくの間、PSA値は非常に低下していましたが、06年8月頃からPSA値が少しずつ上昇したため、カソデックス1錠をオダイン(一般名フルタミド)3錠に替えました。その結果、一時、PSA値は低下しました。しかし、07年11月頃、再びPSA値は1.60に上昇しました。また、肝機能検査のAST(GOT)が41、ALT(GPT)は54と少し増えたため、オダインを2錠に減量して、ウルソ(一般名ウルソデオキシコール酸)3錠を飲み始めました。ウルソは08年4月まで飲みました。その後、PSA値は、08年10月には3.1、09年1月に3.5に上昇し、オダインが効かなくなってきています。オダインは中止してもよいのでしょうか。その結果、PSA値が下がらないとき、また、段々上がってきたとき、どのような治療をしたらよいのでしょうか。もう1つ、骨の治療法についても教えてください。骨の病気の検査に用いるALPは、08年1月に282から09年1月に351に推移し、骨密度は06年に0.741、07年に0.706、08年に0.700です。

(福井県 女性 73歳)

A オダインを中止してみるのも1つの方法

抗アンドロゲン剤を中止すると、むしろPSA値が下がって、病状が好転するという抗アンドロゲン除去症候群という不思議な現象を起こすことがあります。ですから、ご主人のような状態でしたら、抗アンドロゲン剤のオダインは、中止してみるのも1つの方法だと思います。この抗アンドロゲン除去症候群は、アンドロゲン受容体(レセプター)の遺伝子の突然変異で起こると言われています。

男性ホルモンは、前立腺の中で、アンドロゲン受容体と呼ばれる鍵穴と結合して、がんの増殖を助ける働きをします。抗アンドロゲン剤は、アンドロゲン受容体という鍵穴をブロックします。男性ホルモンとアンドロゲン受容体との結合を阻害して、がんの増殖を抑えるのです。ところが、アンドロゲン受容体の遺伝子の突然変異で、鍵穴の形が変わってしまいます。

そうすると、本来なら、抗アンドロゲン剤は、アンドロゲン受容体をブロックする働きがあるのですが、変形した鍵穴にはまり込んで、かえってがんの増殖を刺激するようになってしまいます。つまり、抗アンドロゲン剤を使うことで、がんが増殖して、悪くなってしまうのです。ですから、抗アンドロゲン剤をやめると、PSA値がむしろ下がって、症状がよくなるのです。これが、抗アンドロゲン除去症候群と呼ばれる病態です。

オダインを中止しても、一般的には副作用はありませんから、やめるのも1つの方法です。

オダインをやめたあと、PSA値が上がってきた場合、通常は、女性ホルモンと抗がん剤を結合させたエストラサイト(一般名エストラムスチン)を用います。副腎皮質ステロイドを使う方法もあります。抗がん剤のタキソテール(一般名ドセタキセル)を用いることもありますが、白血球減少などの副作用があります。年齢や、PSA値の動きを考慮すると、治療選択の順番は、エストラサイト、副腎皮質ステロイド、タキソテールでもよいかなと思います。

もう1つ、新しい治療法として、ペプチドワクチン療法があります。

相談者のご主人のように、PSA値が上がってきた方を対象に、現在、臨床試験が行われています。

この臨床試験は、PSA値が10以下で、80歳未満など、いろいろな条件があります。PSA値や年齢を考えると、考慮してもよいかもしれません。

骨の治療法に関してですが、ホルモン療法が効きにくくなり、また骨密度が下がってきている現状を考えると、ゾメタ(一般名ゾレドロン酸)を使ったほうがよいと思います。

がんそのものではなく、骨折や、骨の痛み、骨転移を予防する薬です。エストラサイトや、ステロイドホルモン、タキソテールなどと併用しても構いません。

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