術後、放射線治療を受けたほうがよいか

回答者:中西 弘之
国立がん研究センター中央病院 泌尿器科医師
発行:2009年3月
更新:2013年11月

  

右の睾丸が大きくなり、検査の結果、精巣腫瘍(がん)とわかり、半年前に手術を受けました。病理検査で見つかったのは、セミノーマの細胞だけとのことです。転移はなく、病期はステージ1とのことです。摘出した後は、定期検診を受けています。お聞きしたいのは、このまま経過観察だけでよいのかどうかということです。病気について、自分なりに調べてみると、手術後に放射線療法をすることもあるようです。放射線療法は受けたほうがよいのでしょうか。放射線療法による治療効果は、経過観察だけの場合に比べて、どのくらいよくなるのでしょうか。

(福島県 男性 31歳)

A 当院では慎重に経過観察する方法を選択している

手術後に放射線治療を受けたほうがよいとは一概には言えません。

精巣腫瘍のステージ1というのは、がんが精巣だけに限局する状態です。この状態でも腫瘍のある右側の精巣に関しては、できる限り早期に摘出する必要があります。そして、摘出した精巣の腫瘍組織を詳細に検討して、細胞の形態からセミノーマ(がんの組織型)と非セミノーマに大きく分類し、その後の治療が決定されます。この理由の1つに放射線治療に対する感受性(いわゆる効き目)の違いが挙げられます。セミノーマは放射線治療に非常によく反応するのですが、非セミノーマはそれほど反応がよくないとされています。

精巣腫瘍の治療成績は、1970年代にシスプラチン(一般名)に代表される白金製剤と呼ばれる抗がん剤によって驚くほど改善されました。具体的には全体としての治癒率が25パーセント程度から一気に80パーセントまで向上し、現在では最も治癒率の高い固形がんの1つとされています。逆に言うと、1970年代半ばまでは、進行してしまうといわゆる不治の病の1つでしたので、初期の段階で発見された場合にこそ、十分な治療を行う必要がありました。

以上のようなことから、放射線感受性の高いセミノーマに関しては、ステージ1であっても精巣の手術後に腹部リンパ節に対する予防的な放射線治療が一般的に実施され、その場合の再発率は低く、2~5パーセントとされてきました。しかし、その反面、放射線治療を実施したことによる放射線性腸炎などの晩期合併症が出現することもわかってきました。さらには、放射線治療による2次発がんの率も2~3倍に高まるとの報告もあります。放射線治療をしなかった場合のステージ1セミノーマの再発率はどのくらいかというと、20パーセント弱という報告が多く見受けられます。この数値は放射線治療を実施した場合に比べて明らかに高いです。しかし、この数字だけを見て放射線治療を受けたほうがいいとは言い切れません。なぜなら20パーセント弱しか再発しないということは、8割以上のステージ1セミノーマの患者さんは無意味な放射線治療を受けることになるからです。

最近、放射線治療を実施せずに慎重に経過観察をしたステージ1セミノーマの長期治療成績が報告されてきていますが、再発したとしても、放射線治療や抗がん剤を投与する化学療法によって、最終的にほぼ全例の患者さんが治癒しています。現時点でもステージ1セミノーマに対し、手術後の放射線治療を実施している施設はあると思いますし、それを否定するものではないのですが、当院では放射線治療を実施しないで、慎重に経過観察する方法を選択しております。患者さんが経過観察の重要性を十分に理解された上で、定期的に来院していただけることが、大前提になることは言うまでもありません。

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