声を温存するには?

回答者:杉谷 巌
がん研有明病院 頭頸科副部長
(2012年1月)

甲状腺にがんが見つかり、乳頭がんと診断されました。がんの大きさは3センチほどで、甲状腺に隣接する反回神経のすぐそばにあるため、「がんの手術によっては最悪、声がうまく出なくなるかもしれない」と主治医に言われました。私は接客業をしており、声を温存したいと願っています。反回神経を傷つけなくてすむ手術法や治療法はないでしょうか。また、傷ついた神経を治したり、声を再び出せるようにする方法はあるでしょうか。

(北海道 女性 44歳)

A 反回神経を温存する技術は進んでいる

がんが反回神経に近接している場合、神経を傷つけるリスクがない治療法は、残念ながらありません。治療ではがんを完全に取り除くことを第一に考えますが、QOL(生活の質)の観点から、できる限り発声機能を保つ道も探します。

がんと反回神経が癒着している例で考えてみましょう。治療法としてはまず手術が選択されます。手術ではがんと神経を一緒に切除するのではなく、がんを神経から剥がして神経を残すことを検討します。神経を残すことができれば、発声機能に一時的に障害が起こっても、2~3カ月ほどで回復します。反回神経を残せるポイントは術前に声帯に麻痺があったかどうかです。麻痺があったなら、がんが神経に浸潤していると見なせるので、神経を残すことは通常できません。がんと反回神経を一緒に切除する場合、同時に神経の再建も試みます。反回神経そのものはかなりの長さを切除するわけですから、反回神経どうしをつなぎ合わせることは困難です。ただし、周囲の運動神経とつなぎ合わせれば、声帯の筋肉の萎縮が防げるので、声の質を保てるケースが多いのです。

がんが大きかったり、周囲へのがんの浸潤がひどかったりして、神経の同時再建が難しい場合、手術の6~12カ月後に声帯の位置を調整する手術を改めて行います。手術後に声がうまく出せなくなる症状は、声門をうまく閉じられなくなっているために起こります。そこで、手術で声門の左右のひだを内側にずらしたり、声帯にコラーゲンを注射したりします。

手術の技術は進んでおり、反回神経を切除せざるを得ない例でも、発声機能を回復させる手術の治療成績はよく、元に近い声を出せるようになった患者さんは少なくありません。ただし、高い治療効果を期待するなら、甲状腺がんの治療経験が豊富な専門病院に受診されることをお勧めします。

反回神経=声帯の動きを調節する神経 声門=声帯にある部位で、左右のひだに挟まれた間隙。ここを開閉することで声を出す