鎌田 實「がんばらない&あきらめない」対談

間違った情報・考え方に対応できる批判的手法を持つことが大切 大場 大 × 鎌田 實 (前編)

撮影●板橋雄一
構成/江口 敏
(2015年10月)

「近藤誠理論徹底批判」の 外科医で腫瘍内科医の著者が説く「がんとの賢い闘い方」

8月半ばに『がんとの賢い闘い方 「近藤誠理論」徹底批判』(新潮新書)を出した外科医・腫瘍内科医の大場大さん。このところ、「週刊新潮」や「週刊文春」誌上でも、これまで「がんと闘うな」「がんは放置しろ」などと主張してきた近藤誠氏の批判を展開している。鎌田さんが近藤氏批判の背景を問い質した。

大場 大さん「近藤氏の言論活動がひとつの教養のように扱われているのは不健全」

おおば まさる
1972年、石川県生まれ。外科医・腫瘍内科医。医学博士。金沢大学医学部卒業後、がん研有明病院などを経て、東京大学医学部附属病院肝胆膵外科助教。今年3月、同病院を退職し、セカンドオピニオン外来を主とした「東京オンコロジークリニック」を開設した。著書にこの8月に発売された『がんとの賢い闘い方 「近藤誠理論」徹底批判』(新潮新書)がある
鎌田 實さん「治療法の選択は自分の生き方に合わせて○に近い△を選ぶことが大事」

かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、高齢者への24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数

近藤誠氏との論争が 文春VS.新潮の闘いに

鎌田 大場さんは「週刊文春」(8月13・20日合併号)で、「がんと闘うな」とか「がん放置療法」などを提唱してきた近藤誠さんと論争されていましたが、議論が噛み合わなかったようですね。

大場 実は、「週刊新潮」(7月9日号)が私への取材をもとに、「がんは放置しろという近藤誠理論は確実に間違っている!」という記事を書いたんです。それに対して近藤氏が反論させて欲しいということで、「週刊文春」で対談したわけです。2時間半ほど議論したんですが、出来上がった記事を読むと、議論が全く記事に反映されておらず、近藤氏の従来からの持論のサマリー(要約)のような内容になっていました。

彼は文藝春秋から多くの本を出し、「週刊文春」にも毎年登場されていますから、利益相反があるんでしょうね。文春からすれば、彼の本や記事を出すと、近藤氏の固定読者が喜び、売れますから、「週刊文春」では私の近藤氏に対する批判を、あれ以上は表現できなかったんだと思います。

鎌田 その「週刊文春」が発売された直後に、大場さんの『がんとの賢い闘い方 「近藤誠理論」徹底批判』(新潮新書)という本が新潮社から出された。まるで文春VS.新潮の〝代理戦争〟ですね(笑)。

これまでにも近藤さんの理論を批判する本は何冊か出ていますが、正面切って批判していない面があった。大場さんの本は近藤さんを真正面から批判しており、とても興味深く読ませていただきました。

大場 ありがとうございます。

鎌田 従来、がんの治療法の選択は「〇か×か」という二律背反的な考え方が行われてきましたが、私は〇と×の間に△があってもいいと思っていました。最近、△の中から治療法を選ぶようになりつつありますが、まだそれが定着している状況ではない。

がん治療の一番大事な選択は、患者さんが自分の人生哲学や生き方に合わせて、〇に近い△を選ぶことだと思うんです。そういう観点に立つと、大場さんが近藤理論に対して大胆に×を出したことによって、△の部分が非常に見えやすくなり、選びやすくなってきた感じがします。改めてうかがいますが、大場さんはどういう狙いで、『がんとの賢い闘い方』を書かれたんですか。

近藤氏を批判することで がんリテラシーの啓蒙を

大場 これまで近藤理論を批判する本はたくさん書かれていますが、ある専門性を築いた人が彼を批判しても、その専門性の範囲内での批判にとどまってしまうのは仕方ありません。彼は手術、化学療法、臨床試験、緩和ケア、がん検診といった広い範囲で網羅的に持論を展開していますから。幸い私は、外科医であり、メディカル・オンコロジスト(腫瘍内科医)のトレーニングも受け、臨床試験や緩和ケアにも携わってきましたから、幅広い視点に立って近藤氏を批判できると思ったんです。しかし、本の最大の目的が彼を批判することにあったわけではありません。

私は以前から、近藤氏の言論活動が一般社会において知性をリードする大出版社に守られながら、ひとつの教養のように扱われてきたのは不健全だと問題視してきました。ひとたび現場を離れて外を見渡してみると、まだ一般の方々に対してがん情報を正しくとらえ、理解していただくための努力が充分に行われておらず、がん患者さんやそのご家族のがんリテラシー(がん情報の活用力)がまったく育っていません。そのような状況のもとでは、近藤氏のような鮮明でセンセーショナルな言論活動は一般のがんリテラシーを停滞させ、誤った方向に導いてしまいます。救える患者さんが、救えなくされ、ひいてはがん治療の世界に横行するエセ医学を助長することにも繋がる、と危惧していたのです。

鎌田 本の中では、近藤さんに対する批判とともに、さまざまなエセ医学に対して注意を喚起されていますね。

大場 標準的ながん治療に関する異論・極論を展開して、一般向けにある種のオピニオンリーダー的な存在になっている近藤氏をただ批判するだけでなく、一般の人たちにがん治療に対する正しいベクトルを提示するとともに、がん患者さんたちにはいろんな情報に正しく向き合い、間違った情報・考え方にはきちんと対応できる批判的手法を持っていただきたいと願って、この本を書いたわけです。