鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談
テラ株式会社 代表取締役社長・矢﨑雄一郎さん VS 「がんばらない」の医師 鎌田實

撮影:板橋雄一
発行:2010年11月
更新:2019年7月

  

最新のがん治療法「樹状細胞ワクチン療法」で起業した元外科医のチャレンジ精神
樹状細胞ワクチン療法はがんを狙い定めて攻撃します

矢﨑雄一郎さん

やざき ゆういちろう
1996年4月、東海大学付属病院勤務。2000年、創薬系バイオベンチャー企業に入社。2003年、東京大学医科学研究所細胞プロセッシング寄付研究部門研究員。2004年6月、樹状細胞ワクチン療法を全国展開するテラ株式会社を設立、代表取締役社長に就任。2009年、ジャスダック証券取引所に上場

鎌田實さん

かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、お年寄りへの24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数


鎌田 矢﨑さんはいま、何という会社をやっているのですか。

矢﨑 テラ(tella)株式会社という会社です。

鎌田 経営者で、医師。もともとは外科医で、私のところの諏訪中央病院でも、以前ちょっと、内視鏡を担当していただきましたね(笑)。

矢﨑 お世話になり、ありがとうございました(笑)。

鎌田 あの頃から夢を語っていたけど、ついに達成したということですね。

矢﨑 いいえ、まだ道半ばもいっておりません。これからが本番だと思っています。

鎌田 矢﨑さんのところがやっている樹状細胞ワクチン療法は、いわゆる免疫療法の1つです。日本では従来、いろんながんの治療法を試してみて、もう切り札がなくなったところで免疫療法にしがみつく傾向がありました。そのときには、もうかなり悪くなっており、心の満足だけしか得られない面もありました。もっと早くから免疫療法を試していたらよかったのに、と思うことはなかったですか。

矢﨑 おっしゃるとおりですね。免疫療法は体の中の免疫を高める働きをサポートするのが役目ですから、治療の前のほうの段階で使ったほうが、間違いなくよいと思います。
最近、免疫療法と抗がん剤の併用がいいと考えられています。これは免疫療法を研究する医師・学者の間ではほぼ認知されてきています。免疫療法を現在の標準治療にうまく乗せることができれば、患者さんのQOL(生活の質)も改善されると思います。

標準治療を補完する樹状細胞ワクチン療法

鎌田 樹状細胞ワクチン療法というのは、矢﨑さん自身が開発したのではなく、東京大学医科学研究所が開発したものですよね。それを矢﨑さんがどの病院でも使える治療システムとして開発した。いろんな免疫療法がある中で、なぜ樹状細胞ワクチン療法を選んだのですか。

矢﨑 私は外科医をやりながら、これからどのようなことに取り組むべきか、真剣に悩んでいました。叔父と叔母を悪性度の高いがんで若くして亡くした経験から、がんの基礎研究に関心を持ち、東大の医科研に入り直したのです。そこで樹状細胞ワクチン療法と、その臨床研究データに出合ったのです。
その臨床研究の対象はメラノーマと甲状腺がんでした。標準治療が効かなかった症例で、3割ぐらいでがんが小さくなったとか、進行が止まったなどの結果が得られており、もちろん劇的に効くというわけではありませんが、標準治療を補完する治療法としては、一定の価値を感じました。また、さまざまな免疫療法を調べてみると、樹状細胞ワクチン療法が世界的なトレンドになっていることもわかりました。そこでこの技術を使えないだろうかと考えて、東大の先生に相談したのです。最初はNPO法人を設立することも考えましたが、細胞を使った新しい医療というのは、クリーンルームなど大規模の施設やそのための投資が必要になりますから、株式会社を設立することにしました。

鎌田 一時期、活性化リンパ球療法が話題になりましたよね。私の患者さんにも東京の病院に行って、その治療を受けた人がいました。ご家族の心の満足はあったかも知れませんが、私たち医師からみると、200万円を超す治療費を出したわりには効かなかったな、という印象でした。ですから、はじめからこの療法を望まれた患者さんには、「効かないと思いますよ。どうしてもと言われるのなら、紹介状は書きますが」というスタンスでした。

矢﨑 活性化リンパ球療法と比べて、樹状細胞ワクチンが劇的に効くかと言えば、まだまだ改良の余地のある段階であり、必ずしもそうとは言い切れませんが、ただ樹状細胞ワクチン療法はがんを選択的に攻撃する免疫療法へと進化したものです。実際に、標準治療が効かなかった症例で、がんの進行が止まるなど、3割程度のクリティカル・ベネフィット(臨床的有効性)を得られており、標準治療を補完する選択肢としては期待できると思います。現在、信州大学や愛媛大学をはじめ10以上の医療機関でデータを蓄積しており、それがこれから論文化されます。

がんの顔を認識して狙い定めて攻撃する

鎌田 従来の活性化リンパ球療法と樹状細胞ワクチン療法の違いは、わかりやすく言うとどうなりますか。

矢﨑 樹状細胞ワクチン療法は免疫療法の1つですが、免疫療法の中でもがん細胞だけを攻撃する「特異的免疫療法」です。一方、活性化リンパ球療法は、がん細胞だけを狙うことはできない「非特異的免疫療法」になります。

鎌田 活性化リンパ球療法は、リンパ球を増やして総攻撃をかけるけれども、当たらないものも多かった。

矢﨑 そうですね。その点、樹状細胞ワクチン療法は、がんの顔をわかったリンパ球を育てますから、がんを狙って攻撃してくれる。たとえるならば、活性化リンパ球療法は、暗闇にいる敵に対して銃を乱射しているようなものでしたが、樹状細胞ワクチン療法はスコープをつけて狙いを定めて敵を撃つような方法です。

鎌田 がんの顔つきをどうマーキングするんですか。

矢﨑 樹状細胞にはもともと、がん細胞を食べてしまうという特徴があり、がん細胞を食べたあと、がん細胞の食べかすを自らの表面に貼り付けます。その食べかすを貼り付けた樹状細胞が、リンパ節やリンパ球がたくさんいるところに行き、がんの特徴をリンパ球1つひとつに教え込むわけです。そうすると、リンパ球たちはそのがん細胞を敵と認識し、がんを狙って攻撃してくれるのです。

鎌田 マーキングする場合、患者さん本人のがん細胞だと、よりベターですか。

矢﨑 おっしゃるような、患者さん本人のがん細胞を樹状細胞に食べさせるという方法が1つです。これは東大の医科研でやっていた方法があります。もう1つ、ペプチドなどの、人工的につくったがん細胞の特徴を持った物質(人工がん抗原)を利用する方法があります。弊社が独占実施権を持っているWT1ペプチドも、人工がん抗原の1つです。

東大と阪大の成果を融合できた奇跡

鎌田 WT1ペプチドは、大阪大学で開発されたペプチドですね。

矢﨑 弊社はそれを樹状細胞ワクチン療法に応用する独占実施権を持っています。海外でも非常に関心を持たれている人工がん抗原です。

鎌田 樹状細胞ワクチン療法は矢﨑さんがいた東大の医科研で開発されたもので、WT1ペプチドは大阪大学で開発された。東大グループの成果と阪大グループの成果を融合することが可能だったということですか。

矢﨑 2つの技術を融合させるのは結構難しいことでした。樹状細胞をつくる技術は東大にあるわけですが、どの人工がん抗原を使うかによって、樹状細胞の働き方がまったく変わってくる。私のようなまだ若造で、情熱だけが頼りの人間が、「使わせてください」と頼みに行ったから、「しようがない。使っていいよ」ということになったのかもしれません(笑)。

鎌田 ラッキーだったね。

矢﨑 足繁く何度も通いました。

鎌田 信頼してもらえたんだ。

矢﨑 私が信頼してもらったというより、樹状細胞をしっかりつくっている技術がある、という大前提が評価されたのだと思います。

鎌田 両大学の研究者とも、これが合体したら面白いことができるかもしれないという、科学者としての読みがあったのでしょうね。

矢﨑 それが本当のところだと思います。


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