腫瘍内科医のひとりごと 108 人生の最終段階のお話ですか?

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
(2019年12月)

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

Dさん(64歳 女性 元看護師)は、健診で肺に異常な影を指摘され、某病院呼吸器内科を受診し、CT等の検査を行ったところ、肺がんと言われました。肺の中にも転移があり、手術は無理で、ステージ4との診断でした。

担当のG医師は、CT画像、その他の検査結果、治療法などをきちんと説明してくれて、診察の最後には「何か質問はありませんか?」と毎回言ってくれました。そのことでDさんはG医師を気に入っていました。

結局、Dさんは抗がん薬治療を選択し、点滴治療が最初は入院して、さらに外来で4回繰り返され、その後、内服の抗がん薬となりました。

Dさんは、がんによる症状は全くありませんでした。しかし、抗がん薬の副作用が、点滴では嘔気(おうき)、食欲不振など、そして内服の抗がん薬でも、口内炎、下痢がありましたが、治療で病気が抑えられていること、そしてG医師が親切なこともあり頑張りました。

G医師は、Dさんには病状をしっかり説明してあり、十分理解してもらっている、そしてDさんとのコミュニケーションは良好だと思っていました。

ある日の外来診察でのことです。

G医師が、「一度、ご家族、看護師、皆さんに集まっていただいて、Dさんの今後のことで、話し合っておきたいと思ったのですが……」と切り出して、机の引き出しから「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」と印刷したものを取り出しました。

この表紙を見たDさんは、「人生の最終段階における……」と読んで、「えっ! 先生、私、そんなに悪いのですか? えぇ、人生の最終段階って、もう、そんなに生きられないのですか?」

G医師は「いや、そんなことではないのですが、でも、Dさんには肺がんでステージ4と話していますよね」

Dさん、「はい、聞いています。でも、最終段階なんて、ショックだわ。えー! でも、免疫療法で、ノーベル賞の薬もあるんでしょう? 私は、最終段階の話なんて聞きたくないんです。希望を持っていたいんです」

G医師は(しまった! Dさんにこの話はすべきではなかった)と思ったそうです。

終末期療養の話合いは、なじむのが難しい方も

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)というのがあります。厚労省は、〝人生会議〟という愛称で勧めています。

「医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて 医療・ケアを受ける本人が多専門職種の医療・介護従事者から構成される医療・ケアチームと十分な話し合いを行い、本人による意思決定を基本としたうえで、人生の最終段階における医療・ケアを進めることが最も重要な原則である」としています。

つまり、目的は「患者の意向に沿った終末期療養の実現」ということなのです。

しかし、Dさんのように、「先のことは聞きたくない」という方もおられます。

進行した不治のがんの方が、先行きを理解することと、希望を持つことは矛盾していると言われるかも知れません。進行肺がんの5年生存率はここ数年で10%以上も良くなっている報告もあるのです。

G医師は、ACPがすべての患者になじむのは難しいと感じたそうです。