腫瘍内科医のひとりごと 120 キャンドルサービス

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
(2020年12月)

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

20年ほど前のことです。患者さんの入院している期間は、いまの2倍から3倍、がん病棟ではとくに長かった頃です。

多くの患者さんは、がんの病名は告げられていました。「早く退院できるように、頑張りましょう」そういって励ました時代です。

私たちのがん病棟の看護師から、「クリスマスの前夜に、キャンドルサービスをしたい」との提案がありました。当時の看護長も賛成しているとのことでした。どの宗教にも偏らないのは病院の方針ですが、「いまや日本のクリスマスは、宗教に関係なく全国的なもの」と、私は賛成しました。

 

 

入院中の母の話を思い出す

早速、キャンドルサービスはその年から始まりました。

40数名入院されている病棟です。クリスマスの前夜に、部屋のドアは開けて、看護師がろうそくに火を灯し、小さな声で病室の廊下を回るのです。

死期の迫った患者さんもおられます。他の宗教の信者の方もおられたと思います。

キャンドルサービスそのものに、そして看護師たちの患者さんを思う心に、皆さん感謝されていたのだと思います。私のような無宗教の人間でも、心洗われるような気持ちになりました。

キャンドルサービスを賛成した私ですが、私は母のことを思い出すのです。

私が小学校に入るようになって、結核で入院していた母が退院し、一緒に暮らせるようになりました。

母は、長い入院中のこんな話をしてくれました。

12月の雪の降る静かな夜、病院の窓の外から、数人で歌う、きよしこの夜が聞こえてきました。その歌声にとても感激しました、と言うのです。

我が家はクリスチャンではありません。母は、毎年クリスマスが近づくと同じことを、繰り返し私に話していたのです。

今年の病院のクリスマス行事は……

キャンドルサービスは、他の病棟でも行われるようになりました。

また、12月に入ると病院玄関のフロアで、クリスマスコンサートが行われるようになりました。これは毎年たくさんの方が集まりました。狭いフロアでも、ぎっしり150人以上は集まったと思います。

演奏者は、患者の家族だったこともあります。車いすの方、点滴架台を引きながら来られる方。「生(なま)の声が良い」「なまの演奏が聴きたい」、そう話されて集まります。

今年は、コロナウイルス流行で、どうなるのでしょうか?

病院の玄関には「患者さんご自身と医療体制を守るため。新しい診療スタイルへ」と題しての掲示があります。

「院内の滞在時間を極力短くしてください。付き添いは最小限に。待合でも間隔を空けてお待ちください。マスクのご着用をお願いします」と。

どの病院でも、クリスマス? それどころではない。そう言われそうです。

今年は、もう、無理なのか?

席を空けて? Web演奏? まさかWebキャンドル⁇

いくらWebが進んでも、Web診療も進んでも、診療も対面、つまり〝なま〟には勝てません。

どんなにIT化が進んでも、人間と人間の関係が、なまでなければ人間社会は成り立たないと思います。

今年は、仕方がないと思いますが、早くコロナ流行がおさまってくれることを祈ります。

ろうそくの炎がWebになりませんように。