腫瘍内科医のひとりごと 121 参拝も分散して

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
(2021年1月)

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

正月には、Aさん(66歳、乳がん手術後2年)の家に誰も来ない予定です。テレビを見て、ひとりで過ごすつもりです。息子、息子の嫁さん、孫からは「お正月は行けないけど、来年もよろしくね」と、スマホの画面からの挨拶でした。

今日は、今年最後の病院です。F病院入口には、すでに「明けましておめでとうございます。院内の滞在時間を極力短くしてください。マスクの着用をお願いします」との大きな掲示がありました。

超音波検査は異常なかったけれど

Aさんは2カ月に1回、F病院の乳腺外科に通院していて、検査を受けたり、再発予防のためのホルモン剤の処方をもらっています。11月末の採血で肝機能検査の異常値を指摘されて、今日は腹部の超音波検査がありました。

朝食事をしていなかったので、検査が終わると食堂でスパゲッティを食べて、診察を待ちました。

担当医の診察では、超音波検査の結果は肝臓などにがんの転移はなく、脂肪肝があるとの診断でした。

ほっとして、担当医にこんな質問をしてみました。

「免疫力を上げるのにキノコがよい、と聞きました。いま、キノコをたくさん食べています。バター炒めがおいしいのです。よろしいでしょう?」

担当医「食事に偏りなく、いろいろなものからバランスよく、まんべんなく栄養を摂るのがよいのです。ある種の食事で免疫力が上がるということはありません。バター炒め?……今後1年で、せめて体重5㎏は減らしましょう」

Aさん「5㎏ですね。私はストレスがあるとケーキを食べたくなるから、それはやめることにします。ただ、体重のことを言われるのがストレスなのよね」

担当医「ストレスを解消する方法を考えましょう。体を動かすとか、まずは歩きましょう。次回、2カ月後はまた体重を測りますよ。それから、この病院では栄養指導というのがあります。栄養士さんに食事の指導をしていただきましょう。次回、私の外来が終わった後に予約しておきます。よろしいですか?」

Aさん「はい、わかりました」と答えました。

幸先詣でお願いを

いつも、帰りは病院の前からバスで駅に向かうのですが、今日は先生に5㎏の減量と言われたので、歩くことにしました。

たまたま、駅への道なりで、雑貨屋の店の前に、束になったチラシが置いてあり、それをみると「自然食でがんが治る! 玄米食でがんが消えた!」と書いてありました。

「騙されませんよ!」とひとりで呟いて歩きました。

途中で、神社に寄ってみることにしました。

人はほとんどいません。マスクをした初老の男性から声をかけられました。

この近所に住んでいる方らしく、「幸先詣(さいさきもうで)で、今月中に済ませた方がたくさんいて、たぶん初詣はすごく少ないでしょう。この神社の初詣は、節分まで大丈夫なんですよ」と教えてくれました。

コロナ流行のせいで、神社も分散して参拝なのか……、と思いながら階段を上がり、鳥居をくぐって神殿に向かって手を合わせました。

Aさんは「今年は無事で過ごせました。ありがとうございました。来る年は、コロナが早く落ち着いて、がんの再発もなく、5㎏痩せて、世界が平和でありますように」とお願いしました。