コミュニケーションの大切さ

文:田中祐次 東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワーク部門客員助手
NPO血液患者コミュニティ「ももの木」理事長
イラスト:杉本健吾
(2009年3月)

ももイラスト

たなか ゆうじ
1970年生まれ。徳島大学卒業。東京大学、都立駒込病院を経て、米国デューク大学に留学。
現在は東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワーク部門客員助手。
2000年、患者会血液患者コミュニティ「ももの木」を設立し、定期的な交流会を続けている

少し古い話をさせてください。普段、仕事で講義をする機会はないのですが、昨年の暮れにあわせて5カ所ほど講義を依頼されました。テーマは患者学です。

講義内容は、僕自身が行ってきた患者会の話。そして、その中で気づいた(教えてもらった)患者さんや家族の方の思い。そして、お互いの思いを知ることが大切であり、その後に互いのコミュニケーションが生まれること。だからコミュニケーションのスキルを習得する前に人の思いを知ることが大切、という内容です。このことは、僕自身が患者会や患者さん、患者家族の方からの相談を受ける中で実感してきたことです。医療者が実感するためには、僕と同じように患者会などで患者さんや家族の方と、人間同士の触れ合いをすることだと考えています。そして人の思いが学問になることで、より多くの医療者に伝わると考えています。

イラスト

今回の講義を受けてくれた人たちは医療者です。医療者の卵もいれば医師や看護師とさまざまでした。そして講義中の反応もさまざまでした。この話は大切だと感じたときは、多くの人がメモをとります。話を聞いて大きくうなずく人は、一見よく聞いて理解しようとしているように見えますが、1時間以上の話を記憶できる人はそう多くはいません。なので、真剣なまなざしではなく、メモをとっているか否か、ここが反応の見方のポイントだと僕自身は思っています。

講義は多少笑いを入れながら楽しい講義を目指しています。とはいえ、目を閉じ、船をこぎだす方もいます。僕も学生時代はよく授業中に船をこいでいましたが、意外と講義を行う身になると、船をこいでいる人が思う以上にさみしくなることを最近知りました。

さて、僕の講義の中でメモをとる人が多かったのは、患者さんとのコミュニケーションのところでした。とくに看護師の方は熱心でした。そして、医学部学生からは質問が多く出てきました。また、年配の医師の方々が質問をし、ご自身の経験を熱く語られたのは患者会のことでした。実は自分も患者会の活動を支援していたという話が多く出てきました。皆さん60歳を超えている先生方です。

僕自身は、患者会活動を行っている医師は今の世の中珍しいと思っていました。でも、大先輩方にとっては、とくに珍しいことではないようです。むしろ、医療者として当たり前だったのかもしれません。患者さんとのコミュニケーションも、講義や学問として学んだのではなく、患者さんとの触れ合いの中ではぐくんでいたのかもしれない、そう感じました。

患者さんに学ぶことは多いですが、医療者の大先輩方に学ぶこともこれまた多いのではないか、そう感じました……。