海外を含めた患者さん同士の交流は大切です

文:田中祐次 東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワーク部門客員助手
NPO血液患者コミュニティ「ももの木」理事長
イラスト:杉本健吾
発行:2008年10月
更新:2013年6月

  
ももイラスト

たなか ゆうじ
1970年生まれ。徳島大学卒業。東京大学、都立駒込病院を経て、米国デューク大学に留学。
現在は東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワーク部門客員助手。
2000年、患者会血液患者コミュニティ「ももの木」を設立し、定期的な交流会を続けている

「患者さん側から医療者に思いや気持ちを教えてほしい 2」でも紹介したように、数年前から「血液患者コミュニティももの木」のメンバーを通じて、韓国の「韓国白血病患友会」(韓友会)との交流が始まっています。2008年7月には、僕自身が韓国に行き、患者会に参加してきました。今後もどんどん交流を深めていきたいと思っています。

患者・家族を幅広くサポートする韓国白血病患友会

韓国にある患者会「韓国白血病患友会」は、慢性骨髄性白血病に対する分子標的薬であるグリベック(一般名イマチニブ)の患者負担を減額してもらうことを目的に7年前に設立され、政府と製薬企業に対して交渉を始めました。

当時、健康保険の患者本人の負担額は医療費全額の30パーセントでしたが、交渉の結果、政府が本人の負担額を20パーセントに下げ、さらに製薬会社ノバルティスファーマ社より10パーセント分を患者に還元することになりました。その後、政府が患者負担額を10パーセントに引き下げたため、患者負担額が現在では実質ゼロになりました。

現在の韓友会は、スタッフ5人、ボランティア100人、会員4000人の組織へと成長し、慢性骨髄性白血病だけでなく血液疾患全般の患者・家族が集まる会になっているそうです。

薬の患者負担の減額だけではなく、献血問題や患者・家族の心理サポートなど活動の幅が広がっています。

異なる韓国と日本の献血事情

イラスト

今回の訪日の目的は、日本の献血システムの調査だそうです。

日本ではほとんど行われていない感染症に対する白血球輸注が、韓国では年間3000件ほど行われています。ちなみに、日本でも骨髄移植後の再発に対するドナーリンパ球輸注や、EBウイルスによるリンパ増殖性疾患に対する全血輸血という形で白血球が輸注されることはあります。韓国ではG-CSFを投与された血液提供者(ドナー)から採取した白血球を、感染症を発症した白血病患者に投与します。

ここで問題になるのは、韓国ではドナーを白血病患者自身およびその家族が探さなければならないことです。韓友会では、このような白血病患者の負担を減らすために、ドナー確保のための協力活動を行っています。

また、日本をはじめ諸外国を訪問し、献血や白血球輸注の事情を調査し、報告書を政府に提出するそうです。

日本で献血ルームの視察などを終え、日本と韓国との献血の違いなどを実感し、とくに白血球輸注が行われていないことを知り、驚いていました。僕自身も韓国の現状をほとんど知らなかったため、韓国の現状に少なからず驚きを感じました。

また、ボランティアの中に日本語の通訳をしていた方(2年前に骨髄移植を受けた患者さんです)がおられ、その方を通じて日本の血液関係の患者会に連絡があり、交流会の依頼がありました。そこで血液患者コミュニティももの木との交流会が企画されました。

当日は韓友会4人、NPO血液患者コミュニティももの木20人が交流会に参加しました。

自己紹介後は、医療制度や費用の違い、医師とのコミュニケーションの問題、病院の問題など互いの興味が尽きず、会話は途切れることなく続きました。初めての患者会の国際交流は大盛況でした。

また、患者会交流会の前日には、韓友会の方々と一緒に帝京大学医学部付属病院、都立駒込病院、国立がん研究センター中央病院の病院見学を行い、日本の医療現場、とくに血液病棟や無菌病棟を視察し、医師や看護師と意見交換しました。

国立がん研究センター中央病院では、我が国の臨床医の代表的存在ともいえる土屋了介院長自らが病棟、外来、相談室、調剤部など病院全体を案内してくれました。

土屋院長が、患者会活動を重視していることを身をもって示されたことに、医療者と患者とのコミュニケーションに問題を感じていた韓友会の方々は、喜びとともに非常に驚いていました。

今回の活動を通じ、韓友会の方々の医療に対する強く真剣な思いが、グリベックの患者負担ゼロという結果を生み出し、さらに海外患者会との交流活動につながっていることを実感しました。

韓国との交流を深めていきたい

写真:韓国の患者会に参加
7月24日には韓国の患者会に参加してきました

そして、2008年7月24日には僕自身が韓国に行き、患者会に参加してきました。

それは夜19時からはじまりました。30人くらいの患者さんが集まり、それぞれが自己紹介をしました。なかにはお子さんが白血病で「ここまで回復しました」と涙ぐむお父さんや、「夏休みのために帰郷する途中にソウルに寄ったので参加しました」という遠方の方もいました。

挨拶の途中にちゃちゃを入れる方もいたり、なごやかな雰囲気で会が進みました。そして、自己紹介の後は各疾患ごとに分かれ、フリートークがはじまりました。

僕は残念ながら韓国語は話せませんし、聞くこともできませんが、集まった患者さん達がつくる雰囲気を感じることができ、自分自身も暖かな気持ちになることができました。

今後どのような形で韓国の方々と交流していくのか、まだ模索中ですが、海を隔てているとはいえ、隣の国です。どんどん交流を深めていきたいと思っています。

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