赤星たみこの「がんの授業」
【第三十六時限目】再発への心得 ハンディを持ちながらも、生き生きと生きていくという生き方
赤星たみこ(あかぼし・たみこ)●漫画家・エッセイスト
1957年、宮崎県日之影町(ひのかげちょう)のお生まれです。1979年、講談社の少女漫画誌『MiMi』で漫画家としてデビュー。以後、軽妙な作風で人気を博し、87年から『漫画アクション』で連載を始めた『恋はいつもアマンドピンク』は、映画化され、ドラマ化もされました。イラストレーターで人形作家の夫・新野啓一(しんの・けいいち)さんと、ご自身を題材にした夫婦ギャグをはじめ、あらゆるタイプの漫画で幅広い支持を得ていらっしゃいます。97年、39歳の時に「子宮頸がん」の手術を受けられ、子宮と卵巣を摘出されましたが、その体験を綴ったエッセイ『はいッ!ガンの赤星です』(『はいッ!ガンを治した赤星です』に改題)を上梓されました。
編集部 がんという病気と切っても切り離せないのが、「再発」の不安です。赤星さんは9年前に子宮がんの手術を受け、今ではすっかりお元気になられたわけですが、「再発するんじゃないか」と不安にかられたことはありますか。
赤星 それはありますよ。がんの治療も最初のうちは、高揚感もあって割に乗り切りやすいんですね。ところが手術の半年後に3回連続で腫瘍マーカーの数値がどんどん上がっていったときは、かなり落ち込みました。結局、腫瘍マーカーの値が正常範囲を超えることはなかったけれど、「再発したらどうしよう」という不安感は重いものがありました。それだけに、本当に再発なさった方は、さぞおつらいだろうな、と思います。
編集部 がんの場合、発病したときよりも、再発したときの心理的ダメージのほうが大きいといいますよね。最初のうちは、「がんは死病」という漠然としたイメージからショックを受ける患者さんが多いわけです。ところが治療の過程で、がんも病状によっては普通に生活できるけれども、再発すると完治することは難しいことがわかってくる。それで、再発すると自分の限界が見えたような気持ちになり、大変ショックを受ける方が多いようですね。
赤星 治ったと思っていたのに治っていなかった、という絶望感ですね。初回の治療が成功したときは、「これで大丈夫、大きな困難を乗り越えたんだ」という達成感がある。それが再発したとたん、一瞬にして望みを失い、ヘナヘナと崩れてしまう。
がんの予後を測る1つの目安として「5年経てば大丈夫」というのがありますよね。私も手術から今年で9年になるんですが、実はここ2年ほど検診を受けていなかったんです。何事もなく時が経つと、「まあ大丈夫だろう」と、ついつい甘く考えてしまう。いつも「検診を受けることが大切!」と力説しているだけに、これで再発したら目も当てられないなあと思って、先日2年ぶりに受けてきました(笑)。
編集部 赤星さんはもし再発したら、どうされますか。
赤星 正直、再発に対する心がまえはできていないですね。もし検診をサボっている間に再発したら、悔やんでも悔やみきれない。後で後悔しないためにも、やっぱり検診にはマメに行かないといけませんよね。今回は結果もシロでホッとしましたが…。
「がんばってね」の一言がときに患者の心に突き刺さる
編集部 ところで、がん患者さんは人一倍不安を抱えているだけに、周りの人にもそれなりの気遣いが求められます。患者さんに対してはどう接したらいいのでしょう。
赤星 私の友人で声帯にポリープができた人がいるんですが、彼女からこんな話を聞いたことがあります。「友達の1人がインターネットを検索してくれて、『この病気にはこういう治療法がある』と教えてくれた、それが一番うれしかった」って。
私が子宮がんで入院したときも、うちの夫が病気のことをいろいろ調べてくれたんです。彼にまず言われたのは、「心配しても始まらない、がん(の病状や治療法)は人によってそれぞれ違うから」ということ。「同じ薬でも『この人には効かなくても別の人には効く』ということもあるから、あきらめるな」というのが夫の持論なんです。それがずいぶん支えになりましたが普通は「がんばってね」ばっかり。なかには「私たちみたいに若いと病気の進行も早いから、考えなくちゃね」なんて言う友人もいましたよ(笑)。
編集部 周囲のサポートという意味では、専門家による精神的なケアが必要な場合もありますね。
赤星 海外のドラマを見ていると、しょっちゅう精神科医が出てきて患者さんの心のケアに当たっている。一方では、「なんでもかんでも精神科医に任せるのは反対だ。それよりも医師や看護師、周囲の人たちとの心のつながりのほうが大事だ」という意見もある。たしかにそれは大前提かもしれませんが、患者さんのメンタルケアを周囲の人たちだけに求めるのは酷だという気もします。医師だってスーパーマンではないし、看護師さんも常に白衣の天使というわけではない。すべて精神科医に任せろとは言いませんが、「餅は餅屋」で精神科医の手助けが必要な場合もあると思うんです。