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特別対談・日本のがん対策を考える
土屋了介(国立がんセンター中央病院病院長)×中川恵一(東京大学医学部付属病院放射線科准教授)

発行:2010年4月
更新:2013年9月

  

どう生きたいかを考えれば、自ずとがん検診受診率は上がる

中川恵一さん

なかがわ けいいち
1985年東京大学医学部医学科卒。スイスPaul Sherrer Institute客員研究員などを経て、現在東京大学医学部付属病院放射線科准教授および緩和ケア診療部部長。

土屋了介さん

つちや りょうすけ
1970年慶應義塾大学医学部卒。慶應義塾大学病院外科、国立がん研究センター病院外科などを経て、2006年より国立がん研究センター中央病院病院長。

日本のがん検診受診率はわずかに2~3割

中川 土屋先生ほどではありませんが、私も25年間、がん医療に関わってきて、最近感じているのが、医療関係者ほどがん検診を軽んじているってことなんです。がん治療において早期発見、早期治療が大切だということは明らかなのに、病院はがん検診をやる場所じゃないと考えている医者さえいるように思うんです。

土屋 たしかにそういう面は否定できないですね。国立がん研究センターは今年で創設48年になりますが、創設時のスローガンはまさに「早期発見、早期治療」でした。しかし、その後、新しい治療の研究開発に軸足を移すようになりました。もちろんがん検診もやってはいますが、早期発見、早期治療の普及啓発は陰に隠れてしまったと言わざるを得ない状況です。

中川 がんは、早期であれば完治が期待できる病気ですから、早期発見、早期治療を実現することは医療に関わる者の責務だと思います。私もそのための普及啓発に努めているのですが、東大病院内ではやや不評です(笑)。治療の研究を優先するばかりに、医療関係者が、早期発見、早期治療を実現するために必要不可欠ながん検診を軽んじているように感じます。その結果、日本のがん検診の受診率は2~3割にとどまっています。欧米の7~8割と比べると、日本の受診率は低すぎますね。

がんは完治が期待できる早期のうちに発見を!

土屋 実際、日本ではがんだと診断される患者さんの中で、進行がんになって初めてがんが発見される患者さんの比率は高くなっています。

中川 では、がん治療が飛躍的に進歩しているかというとそうでもない。私ががん治療に携わるようになった25年前と比較して、基本的には、ほとんど変わっていないように思います。例えば、子宮頸がん全体での5年生存率は向上してはいます。しかし、進行度別(病期別)に生存率を見ていくと、大きく改善されているとは言い難い。早期なら完治が望めるようになっていても、進行がんでは未だに生存率は低いままですね。土屋先生がご専門の肺がんの治療成績もそれほど進歩していないのではないでしょうか。

土屋 肺がんも同じです。CT(コンピュータ断層撮影)が普及したことで、それ以前には発見できなかった、比較的早期の肺がんを発見できるようにはなっています。そのために肺がん患者全体の生存率は高まっていますが、進行した肺がんの治療成績が大幅に良くなったとは言えないですね。

中川 一方、一般の方は、現在のがん治療を過信されているように思います。新薬が実用化されると、マスコミでは“夢の新薬”などと称して報道されることがあります。こうした報道の影響もあるのか、進行がんであっても治せるものだと考えていらっしゃる方もいるようですが、それは間違いです。そこまでがん治療は進歩していません。

土屋 がんの治療成績が良くなってきているのは、症例がより軽度なものにシフトして、全体での生存率が向上しただけ。これは固形がんの多くに当てはまることなんじゃないでしょうか。

中川 ですから、がんで死なないためには、完治が期待できる早期のうちに発見しなければならないのですが、今なお、その受診率は2~3割でしかない。国民の間でがん検診の重要性があまり認知されていない証拠でしょうね。

中学生のうちからがんのことを知ってほしい

中川 そこで一般の方々にがんのことを知っていただきたいと思い、陰ながら活動を始めています。“鉄は熱いうちに打て”という言葉がありますから、中学生ぐらいからがんのことを知ってもらうべきだと思いまして、中学校でがんについての講演をやらせてもらっているんです。

土屋 それは素晴らしい活動ですね。しかし、中学生相手にがんの話をすることに抵抗を示される先生はいませんでしたか?

中川 はい。中学生にがんのことを教える必要はないと思われたのか「中学生相手にがんとか死ぬといった話をして生徒がノイローゼになったらどうするのか?」と抵抗される先生もいらっしゃいました。

土屋 でも、中学生のうちから知ってもらわないといけない。子宮頸がんの原因となる、ヒトパピローマウイルス(以下、HPVと略す)は性交渉で感染します。高校生から経験者の割合が高くなるデータもありますので、中学生のうちからがんのことを知っておいて早いわけじゃない。

中川 日本ではようやく実用化されたばかりですが、欧米ではHPVのワクチンが実用化され、日本の中学1年生に当たる13歳の女子生徒がワクチン接種を受けています。オーストラリアでの接種率は100パーセントです。一方、日本では「中学生にがんの話をするのは早すぎる」と抗議されるぐらいですから、中学校の先生たちのがんに対する知識の浸透度は推して知るべしですね。

土屋 本来なら保健体育の先生に学校でのがん教育をお願いしたいところですが、現実には難しいですね。

中川 はい。子宮頸がんの原因がHPVであり、それが性交渉によって感染するということを知っている保健体育の先生は、わずかに2割程度だという調査結果があり、先生だけに頼るわけにはいきません。そこで日本対がん協会にお願いして、「がん教育基金」を設立していだきました。その予算で中学生にも理解できるがんの教材、できればDVDを作って、全国の中学校に配布してもらおうと考えています。

土屋 医療関係者がもっと積極的にがん教育に携わっていかないといけないんでしょうね。元医師会長の坪井栄孝さんは、昭和47年に国立がん研究センターを退職されて、郷里の郡山(福島県郡山市)でご自身のクリニックを開かれてから、ずっとがん教育に取り組んでおられました。自ら中学校に出向かれ、先生に交渉して、中学生相手にがんのことをわかりやすく紹介する講演を開催されていました。当然、がんにならないためにタバコを吸っちゃならんと諭されるわけですが、福島県というと葉タバコの一大産地です。

中川 生徒の親御さんには、葉タバコの生産に関わっていらっしゃる方もいらっしゃったでしょうね。

土屋 そうなんです。中学生ですからタバコを吸ってはいけないのは当たり前のことなのですが、今ほど禁煙意識が高まっていない昭和40年代に、中学生相手とはいえ、タバコの生産地で禁煙を推奨するのは、いつ刺されても文句はいえませんよ(笑)。大変度胸のある行為だったと思います。さらに成人式にも出かけてがんのことを話されていました。坪井さんの心意気に比べますと、今のタバコの値上げ騒ぎでの厚生労働関係者の対応は実に情けないと言わざるを得ませんね。


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