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私が目指すがん医療 2
~専門職としての取り組み、患者さんへの思い~
膀胱を残す治療という選択肢を より多くの人が選べるよう実績を積んでいます

現在、2期以降の膀胱がんでは、膀胱全摘による治療が第1選択となっている。だが、膀胱を全摘すると、自力での排尿が難しくなり、治療後のQOLは著しく低下してしまう。そんな中、地域病院で膀胱温存療法を実践しながら、患者さんのQOL向上に取り組んでいる医師がいる。多摩南部地域病院泌尿器科の小林秀一郎さんだ。
ストーマや新膀胱も不要な新しい治療法

「膀胱温存療法は、2~3期の膀胱がんのうち、病変の部分切除が可能な患者さんが対象です。しかし、この治療法はまだ全国的に普及しているわけではなく、一部の医療機関で行われているにすぎません。
がんが筋層に浸潤した2期の膀胱がんの場合、一般には膀胱全摘が行われます。ただし、膀胱全摘の手術はリスクが高い手術であり、体への負担も大きいです。手術後は、新しい尿路を作ったり(回腸導管造設術)、回腸を代用した袋を作って、そこに尿管や尿道をつなげたり(新膀胱造設術)、さまざまな手術が行われます。しかし、ストーマ造設後の生活では尿がもれることがあり、新膀胱でも2、3時間おきにチューブによる導尿をしなければなりません。
いずれにせよ、膀胱全摘後は自力での排尿が難しくなります。そのために、療養後の外出がしづらくなったり、また、そのことがネックとなって、積極的な治療をあきらめる患者さんも少なからずいらっしゃいます」
こうしたQOL上の問題が改善されるのが膀胱温存療法とのことですが、具体的にはどのような治療法なのでしょうか。
「私が実践している膀胱温存療法は、化学放射線療法と膀胱の部分切除を組み合わせた方法です。他施設で行われている膀胱温存療法には、手術を一切行わない方式もありますが、同施設では膀胱全体に40Gyの放射線をかけ、手術で深部のがんを取り去る方法をとっています。さらに、放射線治療の効果を上げるための増感剤として、放射線治療中に一定期間、*シスプラチンを少量併用します。
東京医科歯科大学のデータによれば、膀胱温存療法によってがんが消失した患者さんの5年生存率は、膀胱を全摘した場合に匹敵するというデータが出ています。また、手術後はトイレが近くなることに患者さんはとまどわれますが、慣れてくるとほとんどの方が『膀胱をとらなくて本当によかった』といわれます」
*シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ
「術後も自力排尿ができる」という利点
「また、膀胱全摘術は体の負担が大きいため、高齢であったり合併症をもっていて手術が難しい場合や、手術は可能でも認知症のため術後のストーマ管理ができないといった問題をもつ場合もあります。膀胱温存療法は、がんの場所や範囲によって適応の制約もありますが、手術による体の負担も比較的軽く、自力排尿ができるという利点があります」
同院がある多摩ニュータウンは、“ 超高齢化” が進む街としても有名だ。こうした地域で膀胱温存療法を実践することは、患者さんにとって大きな福音になる。
「遠方から治療に来る患者さんの場合、年をとると通院が難しくなるので、治療後のフォローがしにくいという問題があります。その意味でも、膀胱温存療法が地域で受けられるようになれば、多くの人が幸せになるのではないでしょうか。一方で、患者さんの中には「自力での排尿が難しくなってもがんを確実に治したい」と希望する方がいるのも事実。最終的には患者さんご自身の判断を尊重し、こちらから誘導したり、押し付けたりしないよう心がけています。
膀胱温存療法を、膀胱がん治療の選択肢として全国に普及させるためには、特定の医療機関だけではなく、いろいろな施設でエビデンスを積み重ねていく必要があります。そのためにも、今後は他の医療機関と協力しながら、成果を証明していきたいと考えています」
Let’s Team Oncology ― 患者さん・医療従事者のみなさんへ
膀胱温存療法を行う上で鍵となるのが、放射線科との連携です。この治療法では、増感剤のシスプラチンが体内から排出される前に放射線治療を行う必要があるので、放射線科と連絡を取り合いながら、点滴と放射線照射のタイミングを合わせる必要があります。
さらに、遠方からの患者さんを治療後にどうフォローするかも課題の1つです。とくに高齢の患者さんは遠距離通院が難しいので、地元の泌尿器科に検査を依頼し、経過観察を行わなければなりません。しかし、この治療法がまだ全国に普及していないこともあって、必ずしも依頼を受けてもらえるとはかぎらない。このため、地方の医師とのネットワーク作りも今後の大きな課題です。
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