確かな情報をつかむために、患者とその家族はどう対処すべきか
対談 埴岡健一VSまつばらけい

発行:2005年5月
更新:2013年4月

  
まつばらけいさん まつばらけいさん

まつばら けい
1960年、東京生まれ。2000年2月、子宮がんの手術を受けた。同年、患者会を発足その2年後、父親が前立腺がんC期に、さらにその1年後に母親が大腸がん4期とわかり、昨年母親を看取っている。 自らががん体験者であると同時に、がん患者の家族、遺族でもある。 共著書に『子宮・卵巣がんと告げられたとき』(岩波アクティブ新書)、『なぜ婦人科にかかりにくいの?』(築地書館)、『わたしのカラダ』(朝日新聞社)などがある。


子宮・卵巣がんのサポートグループ あいあい
リンパ浮腫にとりくむ会 りんりん

埴岡健一さん 埴岡健一さん

はにおか けんいち
1959年、兵庫県生まれ。大阪大学卒。92年7月から97年3月まで米国に滞在、「日経ビジネス」のニューヨーク特派員と同支局長をつとめた。その間に白血病で奥様が他界。現在は、「日経メディカル」編集委員。99年4月から2003年3月まで、骨髄バンク(骨髄移植推進財団)の事務局長を務めた。2004年8月から東京大学・医療政策人材養成講座特任助教授。 著書に『インターネットを使ってガンと闘おう』(中央公論社)、『もっといい会社、もっといい人生』(河出書房新社)など。


白血病患者と医師のためのメーリングリスト
「白血病談話室(ルークトーク)」創設者、
「開かれたコミュニケーションのための医療情報プロジェクト」リーダー

情報の量、質ともにアメリカに軍配

――まつばらさん主宰の「あいあい」にはどんな相談が数多く寄せられるのでしょうか。

まつばら 患者や家族からの「いい病院、いい医師を教えて」という切実な相談が一番多いです。その他、治療法の選択、医師とのコミュニケーション、セカンドオピニオンの求め方、リンパ浮腫など後遺症や退院後の暮らしなど、よろず相談です。
ところで病院・医師の情報ですが、アメリカでは、医療サービスの質を客観的に評価するデータが蓄積され、誰でもインターネットなどで手軽に入手できるそうですね? 日本では客観的データは「症例数」だけ。「5年生存率」は、横並びに比較できるものか、問題が指摘されています。そのため、症例数を主な根拠とした病院ランキング本がこの数年相次いで出版され、その読者が症例数の多い病院へさらに集まっているようです。でも、じつはランキング上位の中には、相談窓口へクレームが数多く寄せられている病院も含まれています。症例数の多い病院イコール「医療サービスの質が高い」「患者中心の医療を行っている」とは限らないです。

埴岡 一般的にアメリカのほうが情報を得やすいですね。米国では、患者さんがお医者さんに積極的に尋ねると、どういう治療法とどういう治療法があって、あなたの場合にはどういう理由からこれをお勧めしたいということをわりと丁寧に話してくれる。この方法による治療成績はこのくらいだ、といったことも患者が聞けば、お医者さんはどんどん答えてくれる。それに、患者がインターネット検索などをすれば、ある治療法に関する学術論文の動向をまとめて要約してあるような文書も、けっこう見つかったりします。情報がたくさんあるし、患者も比較的そうしたものを探すことができるというのが、日米を比較した場合の米国の大きな特徴の1つです。
それともう1つは、情報の信頼性という意味で、日本にはきちんとした物指しがないものだからリンゴとミカンを比べでどうのこうのと言っている嫌いがあります。その点アメリカの病院では組織的に全国統一ルールによる「院内がん登録」というのがきちんとなされていて、それに基づいた成績を語ることが多い。例えば、米国には病院が管理している成績の帳簿があるのです。
ところが日本には帳簿がなく、それぞれのお医者さんが自分の担当科の患者さんについて、自分なりのデータベースを作っている場合が多い。また、治療成績を集計したり開示する際のルールも決まっていないため、好き勝手に、成績が良く見えるように提示することもまかり通ってしまうんです。つまり、残念ながら現時点では、日本よりもアメリカのほうが、情報の量、質ともに勝っているというのが実情です。

まつばら その中で、婦人科がんに関しては、一般にはあまり知られていませんが、日本産科婦人科学会の婦人科腫瘍委員会が毎年、登録医療機関別の症例数や、早期の主な治療法などの報告を、学会誌上に公表しています。国内の学会の中では珍しい取り組みだそうですね。ただ地域別ではなく登録順なので、どれが探したい地域の病院か見つけづらい。この本にも問題を指摘する声がありますが、『医師がすすめる専門病院』(ライフ企画)の該当地域版とすり合わせると、ある程度わかります。それに、利用者には、医療機関以上に個々の医師の力量がより重要ですが、それはまったくわからない。参考にしたかったら、医師本人に、担当した年間症例数を直接質問するしかありません。本当のことを教えてくれるかどうかわかりませんが……。また、集計に時間を要するので仕方ないかもしれませんが、2004年に2000年と2001年のデータというように、公表は数年遅れなので、現在の状況はわからない。教授や部長が変わると、専門分野や治療方針ががらりと変わることがありますから。
このデータから、地域の婦人科がんの拠点的な病院を知ることや、その早期の治療方針――例えば温存に熱心か、拡大手術傾向か、などを推測できます。情報不足のなかで大変貴重なデータではありますね。

埴岡 そうですね。私も全部データ入力してインターネットのホームページで開示しようとしたことがありますが、個人だとなかなか骨が折れて途中で頓挫してしまいました。患者団体がみんなで手分けをして、素人にもわかるように編集しなおせばいいと思うんですが……。

院内がん登録=全国統一のルールに基づき、病院全体でがん患者に関するデータベースを構築すること

複眼的な目で情報収集し、実際に医師に会ってみる

――さて、そうした情報の洪水の中で、いい病院いい医師を紹介してほしいと尋ねられたときに、具体的にはどういう答え方を?

まつばら セカンドオピニオン医や温存に熱心な医師など、特定の目的でお探しの場合は、具体的な医師名を、できれば複数お知らせすることもあります。
選び方としては、情報源を1つだけでなく、複数をすり合わせて判断することをお勧めします。先の婦人科腫瘍委員会報告の存在と、活用方法をお知らせすることも大事な役割です。その上で、インターネットや新聞、雑誌記事、その病院にかかった利用者の感想、地元住民の評判、患者会の評判、関連の医学論文など、できるだけ複数集めることです。
「名医」の評判は鵜呑みにするのではなく、その根拠を確認することが重要。ただ「役職が上」だったり、論文数の多さではない。それは臨床能力とは別物です。逆に、「すぐ切る」「儲け主義」「医師が高圧的で説明しない」「医療事故が多い」など悪評が重なるなら、その負の評判の信頼性はかなり高いと思います。中には過去の評判が、現在は、改革されているということもないわけではありませんが。
担当医の知識や技術以外にも、医師と直接会ってみて、その医師と人間的に相性が合うか、信頼感を持てるかどうかも大切です。がんの場合、治療が終わればハイさようならではなく、治療後の検診で長いおつきあいになりますから。

埴岡 私も、患者さんから病院選びの相談を受けることがあります。でも、「ここがいい」という答え方はしません。いわば、リサーチャー、情報編集者、アドバイザーの立場に徹して、誰でも見ることができる情報を集めてご紹介します。手元には各種のランキング本、がん患者向け雑誌、ガイドラインなどを集めています。それにインターネット検索もします。病院選びを頼まれたら、ランキングAではこの観点からこんな病院がリストアップされている、ランキングBではこの観点から、こんな観点からこんな病院の名前が出ている。この病院のホームページにはこんな情報が掲示されている、がん患者向けの雑誌に登場している医師はこんな人、がん患者団体の顧問の先生は誰、患者団体の講演会でこんな人がレクチャーしているといったことを、一覧表にしてお渡しします。そうしたリストを見ると、自ずと2、3の病院が浮き上がってくるように見えるものです。後は本人に決めてもらいます。患者は、いろんなデータをもらうのではなく、「ここが良い」と決め撃ちしてほしいかも知れませんが、こっちもそんなことはできないし、1つをお勧めするようなことをして責任も取れないのです。リサーチのお手伝いをして、「あくまでご自分でお選びください」ということにします。
それともう1つ、病院や医者選びに関する情報だけではなく、セットのパッケージ情報をお渡しするように心掛けています。このセットを「闘病情報ピラミッド」と言っています。情報を味方にして闘病する際には、患者哲学、病気に関する医療情報、治療成績や治療実績などの病院情報、闘病仲間と話せる場、セカンドオピニオン、モデルとなるような患者さんの闘病記といった各種の情報が大切になってきます。こうして並べた項目の前のほうを知っていてこそ、後ろのほうの情報が活きるのです。良い病院を知りたいという人には、患者哲学や自分の病気に関する基礎知識も持っていてほしいのです。最終的に決めるのは自分ですから、いろいろ人に尋ねると同時に、自分なりに情報を噛み砕いて判断していくための、情報源や武器や考える力もいっしょに身につけてほしいという気持ちです。

まつばら 私もかつてそうでしたが、「若葉マーク(初心者)」患者だと、総合病院や大学病院では、自分と同じ病気の患者がある程度の人数いるだろうと期待しがちですが、現実は違います。ただ、症例数が少なくても、がん治療に携わるのに十分な知識と技術を持つ医師がいる場合もあります。
産婦人科医の場合、専門が産科と婦人科に分かれ、婦人科の中にも良性疾患か、悪性疾患か、さらに悪性疾患の中でも、子宮頸がん、卵巣がんなど得意分野が分かれていることがあります。そもそも、がんの専門医がいるということを知らない人が少なくないんです。自分の担当医ががん専門でなかったら、がんの専門医へセカンドオピニオンを求めることを強くお勧めします。
がんと告げられたとき、人はとかく「一刻も早く悪いところを取らなければ死んでしまう」と焦りがちです。その上、医師の中にも手術を急かす人がいます。でも、例えば婦人科がんでも、卵巣が破裂寸前など、一刻を争うケースはごくまれです。多くの場合、適切な医療のために治療前に精密な検査を受け、病状をできるだけ正確に把握し、治療方針を立てることが必要です。その間に納得できるインフォームド・コンセントを受けたり、知識を得たり、セカンドオピニオンを求めることは可能です。
ことを急いて医師任せになると、医師中心の医療のベルトコンベアに乗せられて、後で「こんなはずじゃなかった」「他にも選択肢があったのか」と後悔することにもなりかねません。取り返しのつかない、体への負担の大きい治療の前に、セカンドオピニオンを求めることを強くお勧めしています。できればまず担当医からよく説明を受けてから。でも、担当医が質問に応じなかったり、怒鳴り出す人もいますから、やむを得ない場合もあります。紹介状やCT、MRIの画像など資料の持参も原則です。病理診断にもバラつきがあり、誤診もありますから、病理標本も借りて、ほかの医師に確認してもらうことも奨励しています。婦人科疾患の場合、セカンドオピニオンを受けるのをためらう方の中に、内診があるからイヤ、という方もいますが、資料を持参すれば内診なしに意見を求めることは可能です。

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